コロナ補正予算「1兆円」を使った音楽業界再生の具体策
鼎談:佐藤タイジ×加藤梅造(ロフトプロジェクト社長)×村上敬亮(経産省)
コロナ禍により未曾有の打撃を受けた音楽業界。
長引く苦境の中、現場は奮闘するも未だ打開策は見出だせていない。
この状況を打破し、新たなライブエンターテイメントを切り拓くためにはどうしたらいいのか?
緊急事態宣言下の2021年1月21日新宿ロフトに集まったのはオーガナイザーを務める太陽光発電によるロックフェス『THE SOLAR BUDOKAN』を2020年も敢行したミュージシャン:佐藤タイジ氏、日本のライブ文化を発信し続けてきたライブハウスロフトプロジェクト社長:加藤梅造氏、産業を支援する経済産業省中小企業庁経営支援部長:村上敬亮氏。村上氏は1月28日に成立した第3次補正予算で、事業再構築補助金約1兆円を企画した張本人でもある。
それぞれ異なる道を進みながらも、全員が1967年生まれという共通項を持つ3人がこの1兆円の大規模予算を機に、音楽業界救済のために何ができるか、熱く語りあった。
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- 05 Mar 2021
「コロナ禍でずっと赤字が続いている」(加藤)
まず、ライブハウスの現状から聞かせてください。ロフトプロジェクト※1は今どんな状況ですか?
加藤「今は2回目の緊急事態宣言が出たところ(取材日1月21日時点)ですが、昨年4月に1回目の緊急事態宣言が出る前から、ライブエンターテイメントは他の業界より先に自粛を与儀なくされました」
タイジ「ライブエンタメが最初に叩かれたよね」
加藤「はい、それで再開も最後だったんですよ。ライブハウスは昨年6月19日からガイドラインに従った上での営業再開が認められましたが、お客さん同士の距離をガイドライン通りに1〜2mとると通常の20〜30%しか収容できない状態で。それで営業しても赤字だし、でもやらないわけにもいかない、そんな感じでした。9月19日に観客を50%まで入れてよくなって少しずつお客さんも戻って来たところに今年1月7日に2回目の緊急事態宣言です。1回目の時はお客さんが応援してくれて、各ライブハウスで100以上のクラウドファンディングが一斉に立ち上がって、多いところは1000万円単位で集まったと聞いています」
タイジ「それはすごいね」
加藤「でも今はみんな余裕がない状況なので、2回目のほうが苦しいのは間違いないですね」
今日は新宿ロフトで取材をしていますが、不躾な質問ですが賃料は月いくらですか?
加藤「ここは月300万円です。人件費を入れると月600万円は最低でもかかります。コロナ禍以前の売上は毎月1000万以上ありましたが、1回目の緊急事態宣言後は売り上げが300〜400万円くらいなんで、赤字がずっと続いている状態です」
※1ロフトプロジェクト……株式会社ロフトプロジェクト。1971年烏山のジャズ喫茶「烏山ロフト」からスタート。2021年3月現在、東京を中心に12店のライブハウスを経営している。
「音楽が不要不急なんじゃなく、ミュージシャンと音楽ファンがなめられてるのでは?」(タイジ)
コロナ禍のライブハウスは観客数が半分以下なのでミュージシャンサイドの実入りも半分以下。でもライブハウス側も箱代を取るためライブをやる度に赤字です。なので、ライブをやる上での最大の経費とも言える箱代の半分を国が補助出来ないのか経産省に問い合わせましたが、それは無理だということでした。
村上「そうですね」
その一方で、Go Toトラベル※2、つまり観光業には補助が出た。観光も大切だけど観光は不要不急とも言える。でも観光業には補助が出るのは自民党・二階幹事長が長年、全国旅行業協会(ANTA)の会長を務めているという構図が見えてくる。これって、選挙に直接関係があるところにお金をまいているようにしか思えない。
タイジ「で、観光業界の人を怒らせたら選挙で投票してもらえへん。政治家からしたら、音楽が不要不急なんじゃなくて、ミュージシャンやそのファンを怒らせたところで落選しないってなめられてるのかもしれへんな。村上さん、どうなん?」
村上「行政の中で観光業と音楽業界を差別して考えるという意識は全然なかったと思います。Go ToトラベルはあるのにGo Toミュージックはないというのは、Go Toイベント※3で音楽イベントもある程度カバーしていたからです。でもGo Toイベントが本格的に始まる前に止まってしまった。その他の補助の問題でいうと、J-LODlive※4は、法人格のある団体の主催であることは求めていますが、小さなライブハウスのイベントも対象にしていると思います」
タイジ「本当に観光と比べて、音楽は差別されてない?」
村上「J-LODLiveの対象にならなくて困っている場合があるとすれば、それは具体的なケースを勉強させてもらう必要がありそうです。ただ、いずれにせよ、行政官の立場で話すと、理屈はあっていても、執行できる予算とできない予算があるんですよ。例えば、新聞紙上を賑わしている法人40万円、個人事業者20万円の一時金というのがあります」
タイジ「あるね」
村上「理屈から言えば、本当に困っている人に高い金額をあげて、儲けている人にはあげる必要はないんですけど、でも儲けているかどうかの線が簡単には引けないんです。例えば、休業要請の対象になった飲食店より、休業してないけれど販売する先がまったくなくなった割り箸工場の方が、実は辛いかもしれない。緊急事態宣言下の東京のホテルも大変だけれど、緊急事態宣言は出てないけれどお客の来なくなった地方のスキー宿の方が実はもっと辛いかもしれない。より辛い人に手厚くするべきだ。その理屈はよくわかるのですが、ちゃんと裏をとって執行をしようとすると、線を引けないこと、できないことってたくさんあるんです」
タイジ「そういうことなんだ」
村上「例えばライブハウスの形態で行政官が思いつくのは、飲食店の認定要件を緩くして、ここも飲食店だって言ってもらうこと。そうすれば月180万円の協力金が出せるかもしれない。実際、飲食店認定を取られるライブハウスもありますね。行政は執行できる・できないで判断するものなので、ここに隙間ができてるから、執行の判断基準を具体的にこう変えて欲しいと叫ぶことは重要だと思います。音楽業界として政治へのロビー活動をすることも大事でしょうし、何より、現状を知っている者同士がもっと知恵を出し合って、解決可能な具体的な提案を切り出せれば、解が出るんじゃないかと思っています」
加藤「今までライブハウス業界はロビイングをあまりしてこなかったんですが、コロナ後は徐々に省庁要請に行くようになってますね。僕も先週、文化庁や経産省の人に会って第3次補正予算※5に対する要望を出しました。実際に話してみると役人さんもちゃんと話は聞いてくれるし〝なんとかしたい〟と思ってることは伝わってくるんですよ。ただ、壁なのは安倍前首相が2020年2月に政府の方針として〝イベントの補償はしない〟って国会答弁をしたことです。それで補償ができない代わりに〝助成を色々と考えています〟ってなる。文化庁の継続支援事業や経産省のJ-LODliveも色んな人が使えるように要件が緩くなってきてるし、うちもJ-LODliveは何件か使ってて、助かっている部分もあります。だけど根本的に最初に〝補償はしない〟と言っちゃってるもんだから……」
村上「ちなみに私、〝補償はしない〟って言っている張本人の一人です」
一同「えっ!?(笑)」
村上「今、休業要請に応じた飲食店に1日6万円の協力金を配っていますが、〝1日6万円は配りすぎだ〟〝休業している店の7割が黒字になる〟という調査結果が出て早速叩かれています。でも事実、6万円では全然足りない人もいれば、普段より収入が増える人も出るわけですよね。補償の範囲、適正な金額って議論に入っていたら、具体的水準って決められないんです」
加藤「家族経営の小さいお店はなんとかなりそうですが……」
村上「理屈上は全部収益を調べて、それに対して出す出さないをコントロールできれば理想的なんですが、これをやっていたら配るまでに半年かかってしまいます。その間に本当に困っている会社は、倒産してしまいます。緊急事態で、とにかく早くお金を配らなければいけない時には、本当に申し訳ないんですが、正確に判断するためにかけられる時間がないんです。丁寧に一人一人の儲けの分布のかたちに合わせてお金を配ることには限界がある。逆に、どうすれば困っている人にはちゃんと出せるか、どうすれば簡単かつ具体的に判断できるか、いろいろ知恵が欲しい。例えば、持続化給付金という支援制度で、対前年同月比で売り上げが一定割合落ちていたら配るというシンプルな基準でやっていても、対応が遅いって叩かれてます。これは一体どうしたもんか……と。現場の言い訳ですけど」
※2 Go Toトラベル……国土交通省が主導する新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって失われた旅行需要の回復や旅行中における地域の観光関連消費の喚起を目的とした事業。
※3 Go To イベント……経済産業省が主導する新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって甚大な影響を受けている文化芸術やスポーツに関するイベントの需要喚起を目的とした事業。
※4 J-LODlive……新型コロナ感染拡大によりプロモーションの機会が失われたコンテンツ関連事業者に対し、国内実施のコンサート、演劇等の開催及び海外発信の支援として、その費用の一部を補助することを目的としたもの。特定非営利活動法人 映像産業振興機構(VIPO)によるコンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金の一つ。
※5 第3次補正予算……令和2年度第3次補正予算。新型コロナウイルスの感染拡大防止策や経済回復に向けた取り組みなどを加速するための経費を盛り込んだ内容で、令和3年1月28日の参院本会議で可決、成立した。
「補正予算1兆円で色んなチャレンジをしてほしい」(村上)
今の話でいうと、欧州各国ではお店の開業時に公認会計士をつける必要があるし、さらに税務処理がすべてIT化され、全店舗が会計士を通して行政と接続されており、行政が毎月の各店舗の状況を把握しているので、迅速に細かい手当ができたけど、日本はその基盤がないわけです。2020年3月11日のWHOコロナパンデミック宣言からもうすぐ1年が経ちます。この間にインフラ整備を含めて政治が何かをしてくれることを期待していたけど、無策に等しく、そこに対する苛立ちがあります。ただ、文句を言っていても変わらないので、使える公的予算を音楽業界で取って新しく何かをやる、それで救える人を助けることが今すぐできることなのかなと思うようになりました。
村上「それでいうと、〝へぇ〟っていう事実と、ある種のキレイごとが一つずつあります。まず〝へぇ〟っていう話は、実は日本の中小企業の約8割の社長さんが自分の会社の月次売上げを知りません」
一同「ええっ!」
村上「それがスタートなんですよ、現実は。今回、持続化給付金の申請で毎月の売上を出してもらってますけど、〝給付金申請のために、初めて月次売上をまとめてみました〟〝月次の売り上げが分かるってすごい良いことなんですね〟って。実はそれが実態なんです。持続化給付金で一番良かったことは中小企業の経営者が月次売上を把握して経営を考えるようになったことなんじゃないかと思うくらいです。だから、そもそも世の中にデータがなかったというのが1つ目の〝へぇ〟の話」
タイジ「キレイごとの方は?」
村上「2/3までの補助で最大6000万円を出すという事業再構築のための補助金が第3次補正予算で1兆円で認めいただけたので、是非これ使って新しいことやいろんなチャレンジをしてほしいという話です」
「音楽業界のDXを起こせたらいいんじゃないか」(村上)
その話が出たところで、ここからが今日の本題です。この1兆円の補正予算を音楽業界にも使いたいと私は思ってます。そこで、どんな使い方や企画なら予算がおりて音楽業界の助けとなるのか?を話したいのですが、その予算について規模も含めて村上さんから改めて説明をお願いします。
村上「令和2年度第3次補正予算で事業再構築補助金として予算額1兆円が認められました。これは中小企業がコロナ禍で本業から事業を再構築する場合、それにかかる費用の2/3までの補助を限度に、最大6000万円を支援するというもので、4月頃から応募を始めて、2か月に1回くらいずつ4~5回公募をやろうというものです。で、補助金が決まったら10ヶ月か1年以内くらいで使ってねっていう形で回そうと思っています」
タイジ「新しいことって、どうするかだよね」
村上「そうなんです。事業再構築のための予算なので、今までと全く同じライブハウスのやり方に対して補助金を出すのは厳しいと思います。新しい技術や設備を入れるとか、遠隔やリアルに関わらず、ライブの仕方とか箱の作り方を工夫するとか、今までとは違う考え方を入れて新しくやってみる。参考になるかわかりませんが、最近、世の中のあちらこちらでDXが流行っていますよね?だから音楽業界のDXをこれをきっかけに起こせたらいいんじゃないかと思うわけです」
タイジ「DXって何?」
村上「デジタルトランスフォーメーションを略してDXっていうんですけど、デジタルで仕事の仕方をトランスフォームしていく、次に移る。言い換えると、縦のものを横にぶち抜くっていう話です。例えば、日本の産業界って自動車業界や家電業界は基本的に縦割りの構造なので、大手メーカーに系列取引している部品屋さんがぶら下がっていて、隣の列にいる他業界で同じような部品を作っていてもお互いほぼ知らない状態なんです。日本って社内で良い技術を作ることはすごい得意なんですが、〝作った技術をどこに持っていけるか自分で考えて〟と言った途端に、〝どこに持っていけばいいかわかりません〟みたいな状態が長かった。ただ今後、人口の減る国内マーケットは確実に縮小してくるし、このまま系列的取引にぶら下がっているだけでは厳しくなるのは明白です。デジタルを使って、これまで違う系列に属していた横同士が組むことで新たなチャンスと可能性を生んでいくことをDXと言っています」
タイジ「へえ」
村上「横と横が繋がる場合、共通して必要な投資をする時に事業再構築補助金は対象となります。しかも、束ねられた全体に対してではなく、新たな束ねに向けて動こうとしている1社1社に6000万円ずつ出ます。できれば、スイミー※6のごとく集まって、その集団が一緒に泳いでいく。そのうちに〝大きくなってきたぞ〟みたいな流れが理想型ですね。そういう1つの方向にもって行ける企画や流れを作って、同じ方向に業界全体が進み、その流れの中で、1社1社が最大6000万円を使ってくれるようになったらいいなと思っています」
※6スイミー……絵本作家レオ・レオ二による『スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし』の主人公の名前
「カラオケボックスが新しい用途で使える」(加藤)
その1つの案がカラオケボックス再利用計画です。おそらく日本で一番数が多い音楽施設がカラオケボックスで、コロナ禍で苦しい経営状況の中、新しい使い方としてライブビューイングはもう始まっています。次にやろうとしているのは、店で歓声を上げたり拍手をするとそれが会場にリアルタイムに届くという技術の開発です。先日も『LIVE FOR NIPPON』※7を無観客でやりましたけど、今ってお客の反応が全く演者に届かない。カラオケボックスの部屋でライブを観ている観客が〝タイジー!!〟って言うと、その声が会場にも届くというシステムの開発が進んでいて、それをカラオケ業界全体でやると各事業者に最大で6000万円ずつが出るから、かなり大きな金額が動かせて、いろんなことができるんじゃないの?っていうことです。
村上「はい。一店舗で導入するくらいでは意味がなくて、業界全体で動かないとメリットが出ないですね」
加藤「カラオケ業界の大手4社分くらいが動けば大きく変わりそうですね。カラオケボックスで何人かでワーってできたら、それってカラオケボックスが新しい用途で使えるということですよね」
例えばアイドルのファンとか楽しいかもしれない。それで配信ライブのチケットが伸びればバックで演奏している人やライブを制作している人への助けになる可能性もあるし。観る側も家でパソコンで観るより〝楽しい感〟が増すと思います。
村上「カラオケ屋っていう発想を捨てて、防音の利いた仕切られた部屋でどんなサービスができるかって考えれば、遠隔ヨガ教室、防音試聴ルーム、楽曲の練習スタジオなど、カラオケは10個以上考えられる用途のうちの1個にしか過ぎないわけです」
カラオケボックスという空間を再利用する方法を考えるということですね。実際にお年寄りや小さなお子さんと住んでいると家で大音量でライブの再生はできないし、アパート暮らしだと飛び上がることもできないって時には、あの密閉された空間が活きてきますね。
タイジ「そこでのモッシュはありとかね!」
加藤「ヴァーチャルモッシュ!確かにカラオケボックスなら騒いでもOKですね。あと、家の外に出ることも精神衛生上いいと思う。STAY HOMEは大事だけど、鬱状態になってる人もいるので、環境を変えることは大事だと思います」
村上「すごく大事です。ちなみに今、STAY HOMEの中で往復の通勤時間が浮いています。これをどう商売に変えるか?という時に、レッスンできる方法を探しているヨガの先生とダンサーが組んで運動不足解消のために簡単なダンス体験とかヨガレッスンを企画して、ちょっと安く教えるとか。そういうふうに異なるもの同士が繋がって新しいことを作り出すのがDXです」
加藤「面白いですね」
タイジ「なるほど。それで言うと、カラオケボックスもそうかもしれんけど、貸しスタジオも大変なことになってるわけやん。貸しスタジオもそのシステムや、その考え方で、いろいろと再利用したいよね。あと、カラオケボックスってネーミングから変えてほしいねん。カラオケって好きじゃないから(笑)」
村上「ネーミングは変えていいんです。事業再構築なので」
※7『明日の日本を考えるLIVE FOR NIPPON』……東日本大震災の直後に佐藤タイジが開始したライブイベント。月に1度、ミュージシャンをゲストに迎えライブハウスでトーク&ライブを行っている。
「音楽業界っていう我々のコミュニティをどうやって次の世代に引き継げるか」(タイジ)
『THE SOLAR BUDOKAN』※8のオーガナイザーでもあるタイジさん、何か新しい発想はないですか?
タイジ「俺が見直したいのが野外ライブ空間の開発やねん。そもそも震災を機にソーラーパワーを使ったフェス『THE SOLAR BUDOKAN』を中津川でやってきて、去年はコロナで有観客にはできなかったけど、中津川をはじめ、いくつかの野外空間を使って無観客配信でフェスをやりました。野外って密閉された空間ではないのでイベント打ちやすいし、わりとでかい敷地でガイドラインに沿った人数ならたぶんやれるんよ」
加藤「そうですよね」
タイジ「あと一番今、手っ取り早くやれるのが公園にあるステージ。井の頭公園や代々木公園とか、ちっちゃな公園にも案外あったりするじゃない。週末やったら昼間からでもぜんぜん打てるし。野外のステージの拡大、これはすぐやれるヤツなんで、俺は暖かくなったらやろうと思ってるんやけど、まずライブをやれる場所を増やさないと。で、仕事ない技術スタッフをブッキングしてイベントを打つのは一番簡単で効果的やと思う。それを配信でカラオケ屋やスタジオに出すなら、結構見えてくるのではないかと思うけど。それで野外ステージに別に名前つけちゃっていいんだよね。ここはロフトが責任持ってやってますとか」
加藤「野外ロフト?」
タイジ「そう!野外ライブハウス。そこのやり方はいろんなやり方ができると思う。野外やったら仕切ることもできへんから近くにおる人もみんな演奏を聴けるってなるやん。俺、それでいいと思うの。仕切りたいわけじゃないから。仕切りの外で観てる人がさ、ライブよかったからこれあげるって言って、人参を渡すんでも別にいいんだよね。近所の人が来て、交換できるもので交換する。それは金でもええし、米でもなんでもありで。なんか、そういう地域社会に根付いたものになったらええと思うんだよね。どっかから金がどさーっとおりたからやってますーっていうのはもうあかんねん。もうもたへんし続かへん。要は、音楽業界っていう我々のコミュニティをどうやって次の世代に引き継げるかって話なわけ。結局、今一番大変なのってそこやねん。本来、音楽ってすごい楽しくて、みんなでわーいってやれるやつなんやけど、そんなん全然なくなってるやん。でも、野外だったらできるし、でかくなくて、ちっちゃい野外でいいの。俺はそれはそれがやりたいし、やるつもり」
加藤「東京は野外ライブが出来る場所が少ないですからね。日比谷野外音楽堂か代々木公園野外音楽堂か上野恩賜公園野外ステージくらいです」
タイジ「でも実際はやれるところあるんよ。そういうところに、やらしてって聞きに行ったほうがいいのよね。で、スタッフを雇う時に、その6000万円みたいのがあったら、何年間か打てるわけやんか。そしたらたぶん全部の状況が変わってくると思う。週末、真っ昼間からそこでシアターブルックやってるよ、とか。そうなると、街の感じが変わってくると思うんだよね。ライブって地下の隔離されたところにあるものじゃないやん」
誰でも自由に楽しめるものですからね。
タイジ「音楽って本当はどこにあってもいいものだから。街に音楽があって当然だし、それは素敵なことだと思う。だったら俺、野外が一番いいと思うんだよね」
加藤「飲食店もコロナ禍で路上営業がOKになりましたよね。あれ、すごくいいなと思っていて。ヨーロッパは普通に路上でカフェやっていて、あれくらい緩いと街も活性化するし、楽しいですよね。歌舞伎町だったら旧コマ劇前のシネシティ広場で毎週末ライブやったらめっちゃくちゃ面白いと思う」
タイジ「いいねぇ。それおもろそうやねぇ。ぜひ頭脳警察・PANTAさんにやってほしい(笑)」
加藤「でも、やっぱり規制があるんですよね。井の頭公園だってステージあるし、やりたいじゃないですか」
タイジ「あそこやったらあかんのよ。馬鹿みたいでしょ。そのしょうもない規制、誰が作ったん。ここでやっては行けません、みたいなステージがあったりするやん。代々木のステージも大きい音出したらいけません、ヘビメタいけません」
加藤「クラブ、ダンスミュージックいけませんって(笑)」
タイジ「アホかって(笑)」
これについて村上さんのご意見を。
村上「公園の話からすると、おっしゃる通りそういうスポットってたくさんあるんですよ。でもやっぱり使用許可をどう取るかという課題はある。上野では国立博物館のあたりの広いスペースに小さい舞台を作って年1回、『創エネあかりパーク』というイベントを照明デザイナーの石井幹子さんとやっています。あそこは東京都の公園管理事務所の管轄なんですが、使用許可を取ったときに大きな後ろ盾となったのは石井幹子さんです。彼女は最初に東京タワーのライトアップや再建した東京駅のライトアップをやった実績が広く知られたアーティストです。彼女が動くことで周りの国立系施設の館長さんたちがみんな応援してくれたんです。だから場所については、いきなりタイジさんがフル音量やったらみんなびっくりするけど、ちょっとずつ抱き起していけばいいと思うんです」
タイジ「それ大事ね」
※8 『THE SOLAR BUDOKAN』……福島第一原発事故を経て、佐藤タイジがオーガナイザーとなり太陽光で行うロックフェスを掲げ、2012年12月に日本武道館にて初開催されたイベント。翌年からは岐阜県中津川市で開催している。http://solarbudokan.com/2020/
「音楽解放区を作りたい」(タイジ)
野外の有効活用案はいいですよね。街や公園に音楽が溢れているといいと思う。ただ、援助なしに新規事業に入っていくのは、今でさえ苦しいわけですから正直厳しいと思うんですよ。予算の話でいうと、各事業主さんにも使える方法ってありますか?
村上「今すぐ使える動きはないですけど、スマートシティって呼ばれている分野があって、簡単に言うと、ある街の一画をデジタル武装して、その暮らしをリデザインするってことが始まっていきます。例えば、公共バスを今のまま走らせると人材不足や人件費の問題で維持できません。だから、そのエリア内は自動走行車両を巡回させて、それに乗れば目的地に行けるし、AIが車内で案内もしてくれるみたいな街にします」
タイジ「夢の未来ですね」
村上「それが技術的には夢の未来でもないんですよ。あと異業種コラボって方法だと、温泉ってやっぱり強いんですよ」
タイジ「何?何?」
村上「今Go Toの結果を見ていると、もちろん仕事で使われる方もいましたけど、〝みんな、こんなに旅行してたんだ〟っていうのを率直に感じています。みんな、旅行が大好きです。今は首都圏からの移動が制限されていますが、今のうちに、地方創生を兼ねて、例えば、温泉エリアに音楽のためにデザインされた〝音楽街〟を作る企画とか考えてみてはどうかと。イメージとしてはアメリカのニューオリンズのバーボンストリートの温泉ヴァージョンの現代版ですかね。その際、街のデジタルシフト※9に合わせたら面白いんじゃないかなと思います。別にデジタルじゃなくても、一流のミュージシャンが集まってくれるんだったら乗ってくる街はあるんじゃないかと思います」
タイジ「温泉業界も代変わりして、俺ら世代が社長になって、〝ちょっとこの傾いてる温泉街どうしよ、なんとかしなきゃ〟って人もいるからね。温泉で思い出したんけど、去年40年ぶりくらいに別府温泉に行ったんですけど、超楽しかった。ドーンと書いてあるわけ、〝性の解放区〟、バンザーイって」
一同「(笑)」
タイジ「でも、音楽はみんなの心を解放するものだから。温泉と音楽は相性いいのかも(笑)。音楽解放区作りたいね」
中期的な方向性として音量制限もなくて自由にできる音楽解放区みたいなのは1つありでしょうね。話を整理すると、カラオケは観る側の環境改善で、家では音響システム含めて厳しいからスペースを新しい方法で使うという考え方で今回の予算が使えそうです。野外の活用はタイジさんが今年春から積極的に行って、賛同する人達が現れてシーンができていくなら、そこに補助金を使えるか?という話。中期戦略としてはミュージックタウンの創設で、これも補助金が使えそうですが、少し先の話。他に今回の予算が使える案を挙げるとすると?
タイジ「あとはオンラインセッションだね。去年オンラインでフェスもやったけど結構がっかりな数字が出て。でも演者としてもオーガナイザーとしても、オンラインフェスってすごい魅力のある言葉なんで、まだまだできることがあると思っています。ただし、配信によるライブの在り方を、もっとブラッシュアップしないといけないと思ってます」
ファンクラブで埋まる人数の2割くらいしか配信のチケットは売れないという話は聞きますし、何か打開策が必要ですよね。
タイジ「だからオンラインでセッションができると一番いいんだよね。アメリカやブラジルのミュージシャンと〝せーの〟でセッションできて、演奏している音も同時に聞こえて、こちらも演奏できてっていうシステムが構築できれば、オンラインでも観てみたいと思う。ただ、技術的にまだ行けてないんだよね」
加藤「音だけだったらSYNCROOM※10である程度は行けるけど、映像があるとどうしてもズレちゃうって言いますよね」
タイジ「そう。俺も『LIVE FOR NIPPOIN』でCharとリモートでセッションをやってみたけど、Charに〝タイジ、お前のギターひでぇ音してるけど〟って言われて、〝ダメだこりゃ〟って。でも去年のオンラインフェスでは海外のアーティストも収録で参加してくれたし、これがアメリカヨーロッパ南米のミュージシャンで、〝せーの〟でやってみて、〝でけた!〟ってなったらおもろいし、そこは見たいっすよ。こんな時代だから、これができたらさ、楽しいし。井上陽水とボブ・ディランのセッションとか桑田佳祐対ミック・ジャガーとか、みんな観たいはずやし!」
※9 デジタルシフト……デジタル技術を用いて、自社のビジネスモデルや組織そのものを変えるための継続的な活動。
※10 SYNCROOM……離れた場所にいる人とリアルタイムに音楽セッションができるヤマハが開発したアプリケーション。
「ミュージシャンのクリエイティブから始まって、新しい共同体を」(タイジ)
観てみたいですね。そこは技術開発を待つことになりますが、予算のことでもう一つ村上さんに聞いておきたいんですが、2021年度の中小企業庁で音楽業界救済に使えそうな予算は大体どれくらいあるんですか?
村上「来年度は平年の投資予算に戻るので、合計で1,100億円くらいしかないんです。そもそも今回、一つの補助金だけで1兆円を認めてもらってるっていうことが珍しいんです。さらに、この事業再構築補助は、〝規模〟だけでなく、〝できるだけニュートラルな補助金にして内容は民間で考えてもらう〟という2つの意味で特異なんです。こういう補助制度ができるのは本当に珍しいんですよ」
なるほど。それが今あるから、この記事を読んでいただいて、我こそはっていうアイデアを集約していくべき、ということですよね。
加藤「たしか、日本は文化予算が1,000億円くらいで、フランスに比べて10分の1と言われてます。韓国の半分以下とも聞きますが、この状況をこの機会になんとかしてほしいと思っていて。日本の文化予算って伝統的なものにはそれなりの予算を使って、海外に出していると思うけど、我々みたいなアンダーグラウンドなもの、大衆的なものには予算を落とさないんですよね。そう思うと、韓国のBTSみたいなのは日本からは出てこないんじゃないか、世界から置いていかれるんじゃないかなって」
タイジ「その辺は韓国に完全にやられてるよね」
加藤「省庁は違いますけど、村上さんから見て日本の文化政策に関してどのように思われますか」
村上「フランスの文化予算と比べられると、国の成り立ちが違うので厳しいですが、例えば、フランスは映画庁がかなり広範に、映画制作費用の1/2を補助する仕組みを作ってしまうくらい独特な文化ですよね。あと韓国の海外展開努力には、正直、負けました」
タイジ「負けたね」
村上「負け犬の遠吠えですけど、日本は国内マーケットが他の産業も最低限の収益を上げれてしまっているんですよ。だから、海外に出て行くより、並行輸入や不正品が国内に逆流してくる方が怖い。これに対して、韓国は国内だけじゃ産業が成立しないのが大前提。だから海外でビジネスをしているわけで必死さが違います。たしかにBTSやアイドル、K-POPは強いです。でも音楽の質や広がりを見ると、逆に言うとそれだけで、ヘビメタで超いいバンドがいるかって言うとそうでもない。でも日本はいろんなジャンルがあって、すごく幅広いので、韓国と同じアプローチではなく、日本は日本のやり方を探したほうがいいと思います。そういう意味で、音楽の新しい用途を探すことでは世界に負けないっていうのが、日本が次に目指すべきところかなと」
タイジ「さっきの温泉の話みたいな?」
村上「そうです。だって、発信のファーストステップになる国内マーケットが日本の場合あるわけなので」
タイジ「それで思うのは、もう10年くらい俺言ってんねんけど、日本にはグラミー賞みたいなのがないの。これ、俺の考え方やけど、グラミー賞って、アメリカにある全ての音楽のジャンルに対して〝今年聴くべき1枚〟というのを出してるわけ。それをやることによって、いいのが1枚出たらその周辺のやつも出て行くわけやんか。で、CDや音源の売り上げだけじゃなくて、それがライブの指針にもなっていくし、日本の音楽業界もグラミー賞の影響ってすごいでかいわけやんか。グラミー賞って権威なんよ。だから、いわゆる〝ジャパンミュージックアワーズ〟っていうのが必要やと思う」
ええ。
タイジ「日本ってポピュラーミュージックも洋楽と邦楽て分けるやん。そこがまず根本的な間違い。音楽は音楽。各地のお祭りの音楽も、アンダーグラウンドでやってるレゲエもハードコアやパンクもひっくるめて同じところに並べるべきで。そういう目線で日本の伝統音楽にも視野を広げたら、音楽的にはまだまだ伸び代があるのよ。アメリカヨーロッパと、まったく違うものがそこにはあるんだよね。何か面白いものがあるって、世界中で気づいている人がおるし、先にやられて海外に取られていく可能性が大いにあるわけ。そうなる前に〝これが日本の音楽です〟っていうのをパーンとやるって意味でも、ジャパンミュージックアワーズって必要やと思う。それがあったら状況は変わっていくと思うし、そういうものをミュージシャン主体で動いていかないと。俺、実はジャパンミュージックアワーズを『SOLAR BUDOKAN』を母体にいずれやったろって思ってんねん」
タイジさんの構想を聞いても、縦割りで閉鎖性が高かった音楽業界をDX的に再編するチャンスなのかなと思いますね。
村上「想像力が強い人にとっては、コロナ禍は、大チャンスです。行政官としては軽々と言っちゃいけないセリフですけど、コロナは新しいことを始めるには大きなチャンスです。大胆に横を繋ぐのって、平時だったら〝やめろ、そんなもん〟って言って止められるけど、今は止められない。こんなに横の繋がりへのドアが開いている瞬間はないと思います。いい企画やアイデアを思いついたもん勝ちなので、アーティストのクリエイティブ力、発想力に大いに期待しています」
タイジ「そこは任せてほしいね。金儲けが下手でも、面白いアイデアを思いつくヤツはこの業界にはたくさんおるから。そういうミュージシャンのクリエイティブから始まって、横の業界や、世界中の人と繋がっていく。そういう新しい共同体ができたら、ジョン・レノンもビックリやろうね」
佐藤タイジ(ミュージシャン)
1967年、徳島県出身。86年にシアターブルックを結成。95年にメジャーデビュー。現在、シアターブルックのほか、ソロ、ユニット等で活動する。
*プレイリスト
『Do it Anyway you wanna』 People’s choice
『Party down』 Little Beaver
『Mother I’ve taken LSD』 The Flaming Lips
加藤 梅造(株式会社ロフトプロジェクト代表取締役)
1967年、愛知県出身。もともとLOFTの常連客だったが、IT会社を辞め、アルバイトとして入社。新宿・歌舞伎町のトークライブハウス「LOFT/PLUS ONE」店長などを経て、2018年4月より現職。
*プレイリスト
『Question-1 (Live)』 ZELDA
『カマキリ-1997 BURST VERSION-』 黒夢
『OMOIDE IN MY HEAD (2000/10/2 新宿 LOFT「FANCLUB 8」)』 Number Girl
村上敬亮(経済産業省中小企業庁経営支援部長)
1967年、東京都出身。1990年、通商産業省入省。IT政策、クールジャパン戦略の立ち上げ等に従事。2014年より内閣官房・内閣府で、地方創生業務に従事し2020年7月より現職。
インタビュー : ジョー横溝
2021年1月21日東京 新宿ロフトにて