〈コロナ禍音楽業界救出大作戦〉野外ライブと『ソラリズム』の可能性 ――清春×加藤梅造(ロフトプロジェクト社長)×村上敬亮(デジタル庁)
2021/07/18『ソラリズム夏2021』トークライブレポート
『君ニ問フ』での佐藤タイジ(ミュージシャン)×加藤梅造(ロフトグループ社長)×村上敬亮(経済産業省※当時)の鼎談「コロナ補正予算『1兆円』を使った音楽業界再生の具体策」(https://kiminitou.com/recovery-of-music-industry/)の中で、佐藤タイジがコロナ禍のライブの在り方として提案していた小規模な野外ライブ。そのアイデアは『ソラリズム』という名前を冠し、7月に東京都あきる野市で2回目の開催までこぎつけた。
その7月の『ソラリズム夏2021』では清春(ミュージシャン)×村上敬亮×加藤梅造で「コロナ禍音楽業界救出大作戦。野外ライブとソラリズムの可能性」と題してトークセッションを行った。司会は本メディア編集長のジョー横溝。
トークでは、『君ニ問フ』の鼎談から生まれた『ソラリズム』の可能性、同じく鼎談で語られた経産省中小企業庁による1兆円予算=事業再構築補助金(https://jigyou-saikouchiku.go.jp/)の進捗をふまえ、音楽業界を次のステップへ向かうための道筋を模索していった。
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- 13 Sep 2021
「〝自助〟〝共助〟は無理です、というのが今の実感です」(加藤)
現在、東京は7月12日から4回目の緊急事態宣言下ですが、ライブハウスは今どんな状況ですか?
加藤「 〝ああ、またか〟みたいな感じです。2回目の緊急事態宣言が1月8日から3月21日まで、3回目が4月25日から6月20日までだったので、今年に入ってずっと緊急事態宣言なんですよね」
コロナの免疫はできていないけれど、緊急事態宣言への免疫はできましたよね(苦笑)。
加藤「そうですね(苦笑)。この状況の中で、何とか生き残っていく覚悟を決めてやるしかないかなと思っています」
緊急事態宣言中なので今は酒類の提供はできないですよね?
加藤「そうなんですよ。お酒が出せないのはかなり痛手です。まん防(まん延防止等重点措置、東京都は6月21日~7月11日)の時は制限付き(2人までの入店で滞在時間90分、夜7時迄)でお酒を出せたので、だいぶ助かったんですが、2週間ほどでまた緊急事態宣言に戻ってしまったので」
2021年のライブハウスは、ほぼ禁酒法時代の様相を呈してますよね。
加藤「はい。あと、営業時間が20時までというのもつらいです。20時までに終わるには18時くらいにはライブを開始しないといけないので、仕事がある人はなかなか来られないですし、やはりチケットの売り上げに響きます」
清春さんは昨日も大阪などロフト以外のライブハウスでもライブを開催していますが、他のライブハウスはどんな感じですか?
清春「やったことがあるライブハウスや思い入れのあるライブハウス、どこも大変そうですね。商社の人が趣味でやっているようなライブハウスはまぁいいんですけど、個人や個人のグループでやっているところは相当つらい。家賃が一番つらいわけで」
加藤「新宿ロフトは家賃が月300万円です。うちの会社は全部で10店舗あり、300万円×10まではいかないですが、家賃だけで毎月約1200万円、人件費を合わせると月に3000万円は絶対にかかるんですよ」
補償はもらえていますか?
加藤「感染拡大防止協力金※1はもらえています。でもぜんぜん足りないですね。去年2020年度のエンタメ業界の落ち込みってすごいんですよ。飲食業や宿泊業も大変だと言いますが、それでも去年で言えば飲食店で27%、宿泊が37%くらいの減収です。エンタメ業界、特にポピュラー音楽の分野はマイナス79%減収、ざっくり8割減なんです※2。しかも通年で」
その状態で「ライブハウスも頑張ってください」って言われても「頑張れないよ」っていう話ですよね?
加藤「そうなんです。菅(義偉)首相は自らの政策理念として〝自助・共助・公助〟を掲げていますが、〝自助〟〝共助〟は無理です、というのが今の実感ですね」
※1 感染拡大防止協力金……緊急事態宣言に伴う営業時間短縮等への要請に従った飲食店等の店舗に対して東京都から支払われる協力金。
※2出典……文化芸術推進フォーラム資料より
(参照元:http://ac-forum.jp/wp-content/uploads/2021/06/form_20210609presentation.pdf)
「〝補助金申請のために事業計画を書いてよかった〟という声がたくさんあった」(村上)
「私たちは税金を納めているんだから、こうした苦しい時にはお上から税金で補助してもらえないのか」ということで、ライブハウスを支援する補助金を探したんですが、この国にはシステムがない。そんな中、経産省中小企業庁が〈事業再構築補助金〉というかたちで1兆円の予算を組みました。このお金は「困っている事業主にお金を配る」のではなく、「事業を新しく展開する人に補助金を出す」というシステムですよね?
村上「そうです。補足すると、コロナでも実は23%の企業は去年よりも儲かっています※3」
加藤「そうなんですか?」
村上「ええ。例えば海運など、物を運ぶ業界は儲かっています。だけど、半分くらいの人は〝昨年よりもつらい〟と言っていて、1~2割くらいの人は収入の6~8割が減っています。そういう人たちは、業種業態を変えようとしていますが、このままではいざ業態を変えようという時に既には資金がなくなってしまっている。そこから新しいことやろうとしても無理なので、補助率2/3、つまり1/3は自分で頑張ってもらい、6000万まで国が資金を出すので事業のやり方、お客さんの集め方を変えてみませんか?ということを始めました」
それが事業再築補助金で、予算が1兆円。この補助金は公募制ですが、公募の状況を教えてください。
村上「トータル5回の公募で、7月2日に2回目の公募が終わりました。年明け2022年1~2月頃に締め切る5回目の公募で終了です」
1兆円の予算のうち2回の公募でどれくらいの補助金を出されたのですか?
村上「2回目の公募は締め切ったばかりで、採択はこれからです。1回目で2000億円ちょっとくらい、だいたい1/5ずつのペースで進捗しています」
1回目はどういう業態から申し込みがあり、どういう人たちのアイデアを採択したんですか?
村上「採択結果については概要も含めてホームページにアップしていますが(※4)、業種で見ると製造業が多いです。その次が飲食業やライブハウスを含むサービス業で、2割弱くらいです」
音楽業界からの申請はありました?
村上「あります。ただ、出足はまだ低いです。年明けまで公募があると説明しているので、準備をしている人の方が多いのかもしれません。具体的に言うと、ライブハウス関係で1次公募の申請は22件、採択されたのが8件です。音楽関係は、申請は144件、先ほどの8件を含む52件が採択されました。2次公募では、ライブハウス関係の申請が20件、音楽関係が126件出ています」
ロフトさんは申し込みましたか?
加藤「ロフトの会社としては出していないです」
ロフトさん的には、この動き出した事業再構築補助金について、どう思われますか? 使いやすさや、これで音楽業界は再構築できそうか。
加藤「まだ申請していないのと、最終的に音楽業界から申請がどれぐらい採択されるかもわからないのでなんとも言えないです。でも、1兆円というのはすごい額ですよね。例えば文化庁が去年の第2次補正予算で文化芸術のために行った助成(「文化芸術活動の継続支援事業」)は500億円ですから、その20倍。金額としてはすごいなと思っていて、チャンスはあると思うんです。だから申請もしたい。ただ、この補助金でライブハウス全部が救われるわけではないので……。説得力のある事業計画書を作るには、それなりに体力があるところじゃないと膨大な書類を作れないと思うんです。ライブハウスって本当に小さいところがいっぱいあるじゃないですか」
清春「小さなライブハウスからすれば、申請のやり方がよくわからないとか、申請してもお金がなかなか来ないとか、そういう問題もあると思います。1カ月って思いのほか早いので、すぐに家賃を払うタイミングがきちゃいますよね。僕、六本木でバーをやってるんですが、コロナで半年以上お店を閉めていて、後に1日数万円の家賃補助が入ってきますけど、それまでは自分で立て替えて支払わないといけなかったので、加藤さんのように固定経費だけで月に3000万円のレベルだともう愕然(がくぜん)とします。しかも、本当に音楽が好きな人ほど不器用に愚直にライブハウスをやっているじゃないですか。だからこそ、ミュージシャンや音楽好きからそのハコが愛されている。そういう人って音楽以外のことを考えるのは難しいと思うんです。それってどうしたらいいでしょうね?」
村上「国から見ると、去年だけで持続化給付金と家賃支援金で6兆円以上の予算を準備し、支援しています。このお金を本当に必要な人には確実に届けて、逆にそこまで必要でない人にはあげすぎないように配分する、これが実はものすごく難しいんです」
その辺りの背景については、前回の鼎談でも触れましたね。
村上「正直1年目は、この先何が起きるかわからなかった。だから、給付すべき金額の精査より、早く給付することを優先したんです。でも、2年目も同じことをやると、今度は孫・子の世代に余計な借金を残してしまう。ただ、1年が経って、儲かっている人と厳しい人がわかってきた。今度は〝厳しいけれど、新たにこういうふうに頑張りたい〟という人を選ぶ代わりに、〝その人たちに1兆円を用意いたしました〟という制度設計をしたんです」
ええ。
村上「そうなると、〝うちはここがこう大変なので、こう変えたい〟という作文をしていただかないと、あげなくても良い人と本当にあげなきゃいけない人の区別がつかない。その作業のご負担はどうしても残ってしまうんです」
清春「なるほど」
村上「1回目の公募では2.2万件の申請があり、8000件を採択しました。早く資金を出さないと手遅れになってしまうので、申請から採択まで1カ月以内にしました。なので、1カ月以内に全部を読み、しかも1人の審査員でやると不公平が出るので複数の審査員がクロスチェックして決めています。申請する方には事業計画を書いてもらわないといけないし、採択するほうもすべて読まなきゃいけないし、とても大変だと思います。でも、〝事業計画を書いてよかった〟という声をたくさんもらったんです」
どういうことですか?
村上「今まで事業計画を書いてこなかった方や顧客規模の推定をやってこなかった方が多数いました。これまでは決まった取引先からの発注を待っていれば良かったんだと思います。もちろん、それに応えること自体は大変な作業だったんだと思いますが。でも、人口減少局面に入った今、国内の市場は規模はしぼみますし、自分で発注を探しに行かないと、どんどん事業は尻すぼみになってしまいます。今回、15枚の事業計画を作文してもらっていますが、当初は〝15枚なんて多い!〟という声が多かったんですよ。でも実際に書いてみると15枚なんてすぐ埋まってしまう。やりたいことのポイントだけ絞って短くまとめないと15枚で収まらない。今までのスタイルではなく、今後、何がやりたいのか自分自身の頭の中の整理もはっきりしたみたいで、〝書いてよかった〟という声を多数もらいました」
そうなんですね。
村上「別の補助金で面白いデータが出たんです。結果的に補助金に採択されたかどうかでは、あまり差が出なかったけど、その補助金に申請したかどうかではすごく差が出たんです。申請を機会に事業計画を書いた人は、補助金給付の有無に関わらず結果を出したということかと思います。今回、一生懸命事業計画を書いてくれた人は、良いチャンスをつかんでいるはずです」
採択された中で面白かったアイデアがあれば参考のために教えてください。
村上「面白いかどうかは別として、今、新聞の配達をする販売店はチラシの折り込みがほぼないんです。そのせいで人件費が払えなくなっていたんですが、地元の細かいところをすべて知っているメリットを活かして、新しい物流業を始めたいと言っている人もいます」
※3出典……東京商⼯リサーチ「第9回新型コロナウイルスに関するアンケート調査」(2020年10⽉20⽇公表)、「第11回新型コロナウイルスに関するアンケート調査」(2020年12⽉17⽇公表)より。
※4参照……事業再構築補助金採択結果(https://jigyou-saikouchiku.go.jp/result.php)
「原点の場所、ライブハウスを潰したくない」(清春)
ロフトグループはこれから申請されるとのことですが、どんなプランを考えているんですか?
加藤「今、多くのライブハウスがライブ配信にすごく力を入れています。6月にも清春さんが新宿ロフトで無観客のライブ配信をしてくれましたが、ステージを使わずフロアでパフォーマンスをしたり、カメラワークも含めて、配信じゃなければできない本当に素晴らしいライブでした。そこにはすごく可能性を感じますし、有観客と配信のハイブリットが持続可能な方法なのかなと思うので、そこはロフトに限らずライブハウス再構築のポイントだとは思いますね」
村上「実際に1次公募で採択になった8件のライブハウスからの申請で、審査側の評判が良かったのが配信事業の新規開始案でした」
清春「コロナが蔓延して1年半から2年くらい、みんな未だに無観客配信ライブに対する抵抗はあると思うんですよ。その反面で、今日もこうして山の中まで人が集まってくれてる。なので、こうした野外でのライブをライブハウス主催でやりつつ、一方で同月にある程度バリューのあるアーティストがライブハウスを使って無観客の配信ライブをすることによって、ハコやライブスタッフを助けてあげられると思うんです。ロフトさんは有観客で50%の客数でやると、ハコ代も50%しか取らないじゃないですか」
加藤「そうですね」
清春「でも、配信でやれば100%ハコ代を支払える。だから、リアルライブと配信を同時にやるんじゃなくて、人気のあるアーティストは配信とリアルを別の日にやるのがベストかなと僕は思い始めてます」
配信は配信でしかできないことをやって全国から視聴者を集め、リアル=有観客は50%の座席数で開催する両方を平行してやる、と。
清春「そうやって、人気のある若いアーティストたちが今はフェスではなくてライブハウスのスケジュールをもっと埋めなきゃいけないと思います。アマチュアバンドの子がやるのもいいけど、この1~2年くらいはライブハウスの家賃を助けてあげないと立ち行かないので。それにプラスして、事業再構築補助金で補強していくのがいいと僕自身は思いますかね」
加藤「そう言っていただけるとありがたいです」
そうですね。
清春「しかも、ライブハウスのスタッフも減ってしまう。それもつらいですよね。僕は11月にまたロフトで配信をやる予定ですけど、今こそ人気のあるアーティストがもっとライブハウスでやってくれたらいいと思うんです。集客力のある子達がスケジュールを5日間押さえてやってくれたら、同格の6アーティストで1カ月のスケジュールは埋まります。その5日間をリアルと配信で分けてやればいいんです」
加藤「そうなったら、本当にうれしいですね。清春さんも定期的にロフトを使って支えてくれているので感謝しています」
清春「あ、僕ロフトのTシャツも作ったんですよ」
加藤「今日、着てきましたよ。近日中にロフトで購入できるようにする予定です」
清春「加藤さんの〈LIVEHOUSE NEVER DIE〉というメッセージをバックプリントに入れていて、前面はロフトの昔の看板をそのままプリントしています。デザインと生産を僕がやらせてもらったんですが、収益は全額ロフトに取っていただきます」
加藤「本当にありがたいです」
清春「いや、お金は僕の貯金じゃなくTシャツ買ってくれるみなさんのお金なので(笑)」
会場「(笑)」
清春「やはりライブハウスを潰したくないんですよね。去年まではライブハウスを救おうみたいな動きがあったんですけど、今年に入ったらもうフェスになっちゃってるじゃないですか?僕は25歳でデビューして今50代なんですけど、僕らの時はライブハウスが定番でした。ロフトって伝説のライブハウスで、あの市松模様のフロアで東京での初ワンマンをやりたいと思っていて、実際にやらせてもらいました。ロフトの次は(川崎)クラブチッタ、その次は渋谷公会堂でメジャーデビューっていうような流れが当時はあったんですよ。今はそういうのをすっ飛ばすパターンもアリみたいですけど。〝じゃあ、みなさん最後、どこに戻るの?〟って考えた時に、〝戻る場所はライブハウスしかないじゃない?〟って思うんですよね」
なるほど。
清春「それは後ろを向くってことじゃなくて、原点に戻る瞬間が必ずある。戻りたい時に場所がないのはキツいですよね」
「みんなが困っている時は組み替えを起こす大チャンスでもある」(村上)
事業再構築補助金のもう一つの目的が、実は今まで横の繋がりがなかった業界が、業界内で、あるいは違う業界と横で繋がっていくことだという話が前回の鼎談にもありました。
清春「業界内で言えば、ライブハウス経営者の梅造さんが主催して売り上げが立つフェスをこういう野外でやればいいと思うんです。その間、ライブハウスは配信で使っていく。そうして本当の意味でのハイブリットでやればいいと思いますね」
確かに。梅造さんから見て、このコロナ禍でライブハウスや音楽産業の変化を感じたことはありますか?
加藤「ライブハウスの横の繋がりはずいぶん増えましたね。もともと一匹狼が多い業界なので、普段はライブハウス同士ってなかなか連携できないんです。けど、そこが連携できたのは良かったし、ライブハウスって何だろう?と問い直した1年ではあったと思います」
事業再構築補助金は音楽業界・ライブハウスには行き渡っていないし、苦境は続いていますが、変化の兆しは生まれてきているようですね。
村上「そう思います。〝自分のお店だけで慌ててどうする?〟というだけでなく、横と連携していくのはよいことだと思います。例えば、このイベントも昼間の開催だから、ライブハウス的ではないかもしれませんが、お子様連れの方も多いじゃないですか」
加藤「そうですね」
村上「野外で昼間ならライブに行きやすいと思いますし。そうそう、事業再構築の提案の中で、お墓が公園を運営したいという話もありました」
どういうことですか?
村上「今、合同埋葬が多くなり、お墓に広場のようなスペースを作るケースが増えてきているんです。その場所を使って〝子供たちが遊べるスペースができないですか?〟という発想です」
清春「面白いですね」
村上「今って、お墓も自然公園もライブハウスも落語家さんも、みんな同時に困っているじゃないですか。こんなにみんなが同時に困っているなんていう状況はなかなかありません。だからこそ、〝うまくやれば、このスペースを落語とライブで一緒に使えるかもしれない〟というような発想もいいと思いますし、そこでお客さん同士のフュージョンが起きたら新しい現象が起きて面白いですよね。普段、これだけ同時にどの業種の人も困っていると言うことはないので、変な言い方ですが、いろいろな業界の方を巻き込んで、組み替えを起こす大チャンスなんです。なので、時間をかけていいプランを出してくれたらいいなと思います」
前回の鼎談でもDXというキーワードが出ましたが、異業種の人たちがアイデアや知恵や場所をシェアしていくのは面白いと思います。梅造さんはこの『ソラリズム』に出られてどんなことを思いましたか?
加藤「ミュージシャンが今一番出る所を必要としていると思うんです。ミュージシャンって毎日でもライブをやりたい人たちなので、彼らが気軽に使える場所がどんどん増えていくのはいいと思いますし、しかも東京にあるというのも素晴らしいので、こういう野外でライブができる場所がもっと増えて欲しいですよね。例えばニューヨークのセントラルパークでライブをやったりするように、日本でも都市部の公園も含めてライブができる場所がもっと増えるといいなと思います」
村上さんは『ソラリズム』にどんな可能性、あるいはどんな課題を感じますか?
村上「とにかく〝混ざる〟〝束ねる〟が大事です。例えばニューオーリンズは街中で7~8ドルくらいでワンドリンクが飲めて、一流のミュージシャンが歌っているのを聴けるような場所がたくさんありますよね。日本でもそういう街を創れないかと思い、今、土砂災害で大変なことになっている熱海に行ってきたんです。熱海だとライブをやる人も帰ろうと思えばその日のうちに東京に帰れるし、温泉街・商店街に音を鳴らすことができる空間が混ざったら、温泉付きのニューオーリンズのような、すごく面白いことになるんじゃないかなと思いまして」
熱海音楽街計画!
村上「そうです。そのためには〝古い商店街〟と〝ライブハウス〟と〝本当に音楽が好きな人〟、その3つが想いをひとつにして取り組まないと実現しません。普通は無理なんですよ。でも、コロナでみんなが同時に困っているので、それが実現しそうだったんです。そういう意味では、コロナは神様がくれたチャンスだと思っています」
確かに。
村上「この三者が同時に困って〝なんとかしよう〟と呼吸が合うのは今しかないと思うので、こういうアイデアがどんどん出てきてくれたらいいなと思います。この『ソラリズム』のような、ライブと自然のコラボもそのひとつですよね」
「室内でも野外でもジャンル関係なく繋がっていきたい」(清春)
清春さんは『ソラリズム』や野外ライブの可能性を、どんなふうに感じてらっしゃいますか。
清春「今って日本だとまだコロナで外に出にくいじゃないですか、まぁ同調圧力なんでしょうけど。天気がいい日でも、キャンプにすら行きにくいのもこの雰囲気でチャラになる感じもいいですよね(笑)。それと、僕のジャンルはこういうイベントやフェスにあまり呼ばれないんです。フェスと僕らみたいなビジュアル系と言われるアーティストには隔たりがあるし、だけど逆に僕ら側から見ると日本のフェスっておよそ出ている人が一緒だなと思うんです。だからこういうイベントに僕だけじゃなくて、僕と似たような後輩たちももっと出ていけば、新しいお客さんも野外イベントに来てくれるようになるとは思うんです。ビジュアル系のファンってほとんど野外フェスに行く機会もないので」
なるほど。
清春「ライブハウスはノンジャンルだけど、日本のフェスはジャンルレスではないよね。そういう主催者側が作っちゃうジャンルの壁が、コロナを機に変わったらいいなと思いますね」
横の繋がりっていうことで言えば、今、飲食店に行くと隣の人との間にアクリル板があってコミュニケーションが遮断されていますが、文化に関してアクリル板は必要ない。オーディエンスを含めて、みんながどんどん横に繋がって音楽業界を豊かなものにしてほしいなぁと思います。
清春「オーディエンスということで言うと、この暑さの中でもマスクを着けて来てくれる人たちがいるっていう事実を大事にして、室内でも野外でもジャンル関係なく繋がっていきたいですよね。村上さんの方からミュージシャンの方に〝こういうのをやったらいいんじゃない?〟みたいなアイデアを出してもらって、みんなでやっていけたらいろんな問題を乗り越えられる気もしますね」
そう思います。今日のイベントもとても大きな希望だと思います。その上で、真の意味で音楽業界がサバイブしていくための課題を最後に聞かせてください。
加藤「昨年3月のイベント自粛要請から1年半以上にわたり時短営業や人数制限が続き、音楽だけでなく、文化芸術分野全体が非常に厳しい状況です。新規プロジェクトや事業への支援だけではなく、今あるライブハウス、劇場、映画館などの文化施設、またはアーティストや技術スタッフなど担い手への直接支援=給付が必要だと思います。それと、ヨーロッパの国々で実施しているように、公的な取り組みとして100%収容ライブの実証実験を行う必要もあると思います」
清春「僕はもう50代で、現役でやれる時間もそんなに長くないから、正直この先もなんとかなってしまうと思うんです。問題は若い世代のアーティストです。いずれまた新たな感染症も蔓延するかもしれない中で、あと何十年も活動していかなくてはいけない。この『ソラリズム』も50代の人間が中心に動いていて、それは素晴らしいことだけど、更に若い世代が自分たちの世代以降の音楽業界のために何をするのか。それが大事だとは思います」
まだまだ課題もあると思うので、折を見て、その課題や『ソラリズム』の進捗などを『君ニ問フ』で語り合いたいと思います。
清春(ミュージシャン)
1968年、岐阜県出身。1994年に黒夢としてデビュー。1999年、事実上の解散後、同年にsadsとして再デビュー。2003年にバンド活動を休止し、清春として3度目のデビュー。シンガーソングライターとして活動する。https://kiyoharu.tokyo/
加藤梅造(株式会社ロフトプロジェクト代表取締役)
1967年、愛知県出身。もともとロフトの常連客だったが、IT会社を辞め、アルバイトとして入社。新宿・歌舞伎町のトークライブハウス「LOFT/PLUS ONE」店長などを経て、2018年4月より現職。http://www.loft-prj.co.jp/
村上敬亮(デジタル庁 統括官 – 国民向けサービス担当)
1967年、東京都出身。1990年、通商産業省入省。IT政策、クールジャパン戦略の立ち上げ等に従事。2014年より内閣官房・内閣府で地方創生業務に従事し、2020年7月より中小企業庁経営支援部長。2021年9月より現職。
テキスト:『君二問フ』編集部
2021 年7 月18 日開催のイベント『ソラリズム夏2021』トークパートの書き起こしの一部に加筆/修正を加えて掲載しています。