SUGIZOが考える、ミュージシャンとしての役割「人々を刺激して揺さぶる、カンフル剤のような存在でありたい」
特集「コロナ禍と表現者たち」04
今年2月から始まった全国ツアーのほとんどをキャンセル、延期するという事態に見舞われたにもかかわらず、新曲『Make a vow』のリリースや、オンライン・チャリティー・フェス『MUSIC AID FEST. ~FOR POST PANDEMIC~』の開催など、コロナ禍でも精力的に活動を続けているギタリスト、SUGIZOへのインタビュー。
SNSでの政治的な発言がたびたび話題になっている彼は、コロナに脅かされているこの世の中に、釈然としない思いと憤りを感じていたという。彼の考える理想の社会とは、どんなものなのか。そして、その社会を実現するためには何が必要なのか。率先して行動する表現者に語ってもらった。
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- 28 Aug 2020
この状況で何ができるか、何を作れるか、何を伝えられるか
コロナの影響で、LUNA SEAのツアーがキャンセルになってしまったんですね。
「LUNA SEAの30周年ツアーで、30本以上あったのですが、結局4本だけやって延期になってしまいました。(ツアーが)始まった時から〝これはやばいな〟という感覚も世の中の流れもあったので、マスクなどの予防策を徹底して来てください、というアナウンスはしていたんですけど。ただ、延期になって正直ほっとしたところはありました。会場で感染が広がるかもしれないことを考えたら非常にリスキーだし、何よりファンの人たちの安全を考えると〝本当にこのまま続けていいのか?〟という疑問があったので」
日を追うごとに感染が拡大していき、ツアーはおろか、その他の活動もできない状況になっていったと思うのですが、その中で何を考えていましたか?
「この状況で何ができるか、何を作れるか、何を伝えられるかということを模索していました。不安や先が見えない恐怖を世界中が感じている中で、バンドとして皆に勇気を与えられるような新曲を届けたいと、急遽『Make a vow』を完全リモートで作りました。この曲は、課金制にせず完全に無償で提供する形を取りたかった。経済的にきついのは、皆同じことなので。その代わり、次の段階としてこの曲をひっさげたチャリティーイベントをやろうと考案していたところ、ちょうどレディー・ガガの『One World: Together At Home』(※1) が開催されて、『これは素晴らしい、この日本版をやりたい』と動いたのが『MUSIC AID FEST. ~FOR POST PANDEMIC~』(※2) ということでした。そういうイベントを企画したり、オファーしたり、制作したりと、ステイホーム中も結局ずっと忙しかったです」
無力感に苛まれるようなことはなかった?
「例えば、今までは震災や水害が起きた時、すぐに現地へ行って被災者の方々や被災地のヘルプができたけど、今回は外出が制限されているうえに、我々が行ったところで医療従事者のサポートは資格的にも能力的にも不可能。まさに手も足も出ない状態で、無力感をまったく感じなかったといえばウソになりますが……なんだかずっと釈然としないんですよね。だって、これって人災ですよね。武力行使は起きていないけど、戦争が起きているのと同義だと思うんです。国民もマスコミに印象操作されていて、コロナは怖い、自粛しなさい、マスクしなさい、と思い込まされている。日本政府は世界の大国に相手にされず、おろおろ行動するだけで政策もほとんど的外れ、何よりも国民のニーズにほとんど合っていない。一国民としては常識に従った行動をするべきだと思ったので家でおとなしくしていたけど、心の中では釈然としない気持ちが煮えくり返っていて、不均衡が激しい世の中を変えたい、人々の生活を思っていない間違った政治を変えたいと強く思っていました」
※1「One World: Together At Home」……2020年4月19日(日本時間)にWHO(世界保健機関)とGlobal Citizen主催、レディー・ガガのキュレートのもと、新型コロナウイルスの救命活動を行っている医療従事者を称え、支援することを目的に行われたチャリティー・コンサート。
※2「MUSIC AID FEST. ~FOR POST PANDEMIC~」……医療従事者をはじめすべてのフロントラインワーカーズを支援するLUNA SEA主催のオンライン・チャリティー・フェス。5月31日にフジテレビONEとFODで生放送・生配信を行った。
真剣に世の中を良くしたいと思う人には、考え方が逆でもシンパシーを覚える
コロナ禍で、欧米では音楽を通したチャリティー活動が盛んに行われている印象がありましたが、日本で『MUSIC AID FEST. ~FOR POST PANDEMIC~』のほかに、そのような活動はあまりされていなかったように思います。それはなぜだと思いますか?
「80年代から欧米では、ミュージシャンだけではなくあらゆる表現者が手を結んでチャリティーのために動くことが日常的でしたよね。有名なところで言うと『LIVE AID』(※3) や『We Are The World』(※4)、アパルトヘイト反対運動の『Sun City』(※5)、今世紀に入ってからは『LIVE8』(※6) など。そういった、それぞれのミュージシャンが立場や損得という枠を超えて、1つの大きなムーブメントを生み出すことこそが我々の役目なんじゃないかと思っているのですが、日本ではそういう文化が根付いてこなかった。その原因は何となくわかりますけどね。たぶん子どもの教育から変えていかないと難しいと思います」
やはりそうですか。
「うん。元を辿れば、戦後にGHQが日本を骨抜きにしたところから始まっていますよね。英語をネイティブにさせない、社会に疑問を持たせない。さらに、テレビを酷使したプロパガンダによって大衆を愚民化させて、それが大成功した結果が今だと思うんです。教育の段階から社会にコミットしないように、ある意味洗脳されてこうなっているので、そこを変えないと根本的に変わっていかない」
昨今、アーティストの人たちも「売れる」ために社会問題に対する発言や表現をすることができなくなっていますよね。
「多くが目隠しをされ、思考停止させられている状態ですよね。だからこそ、自分たちでそれを呼び起こすしかない。世の中を良くしたいと真剣に思っている人には、たとえ自分と考え方が逆だったとしてもシンパシーを覚えます。一番悲しいのは、そもそもそこに触ろうとしない人。でも、多くがそうじゃないですか。そこを僕らみたいなアーティストが刺激して、揺さぶっていかないといけないな、と。たとえば僕がSNSでちょっと刺激的な発言をすると、たくさんの人がハイエナのように毒づいてきますが、そうやってさまざまな思惑、意見が動くのは良いことだと思うんです。それをきっかけに、今まで気づかなかったことに気づくかもしれない。僕がやっていることはカンフル剤のようなもので、決して僕の意見に皆を従わせたいわけではない。もちろん同じ意識の人が多ければ嬉しいですが、重要なのは今までそこに対して関心がなかった人が、少しでも覚醒してくれること。考え方が違っていてもいいんですよ。僕の発言に反対の考えを持った人が揚げ足をとったり重箱の隅をつついてくるけど、『なるほど、こういうふうに言ってくるんだ、じゃあそこまでしっかり考えをまとめよう』と、逆に勉強になることもあるので、あえてそういう人たちをフォローして意見を読んだりもします。もちろん、罵倒やディスには嫌な気持ちにはなりますが、それ以上に学びが多い。
ただ、1つだけ苦言を言わせてもらうなら、日刊スポーツさんが僕のツイートを毎回ニュースにするんです。ありがたいですけど、そのすべてが僕がツイートしたことをペーストしているだけなので、であればちゃんと取材してくださいよ? みなさん新聞記者でしょう? と。あと、あのひどい顔の写真を使うのはやめてくれないかな(笑)。もうちょっとまともな写真にしてくれません? 悪意があるとしか思えない……(苦笑)」
※3「LIVE AID」……アフリカの飢饉と戦う資金を集めることを目的として、1985年7月13日にロンドンとフィラデルフィアで行われた、20世紀最大のチャリティー・コンサート。クイーン、ポール・マッカトニー、U2、ニール・ヤング、ボブ・ディランらが参加。
※4「We Are The World」……1985年にリリースされた、アメリカのスーパースターたちが集結して、アフリカの飢餓救済のために制作したチャリティー・ソング。マイケル・ジャクソン、スティーヴィー・ワンダー、ブルース・スプリングスティーンらが参加。すべての印税は寄付された。
※5「Sun City」……スティーヴ・ヴァン・ザントを中心としたプロジェクト「Artists United Against Apartheid(アパルトヘイトに反対するアーティストたち)」が1985年に発表した楽曲。ボノ、ジャクソン・ブラウン、マイルス・デイヴィスらが参加。
※6「LIVE8」……2005年7月2日にロンドン、パリ、ベルリン、ローマ、フィラデルフィア、東京など世界各地で同時開催されたチャリティー・コンサート。7月6日から行われたG8サミットに向け、アフリカへの支援を訴える目的で開催された。
まずは自分自身を赦し、認めてあげること
コロナによっていろいろな問題が浮き彫りになったと思うのですが、それについてはどう感じていますか?
「残念ながら人の醜さが露呈した数カ月でしたよね。人間の闇があぶり出されてしまったような。自分はそこにのまれないようにしようと思っていましたが、政権の動きに対してはやっぱり冷静ではいられなくて、『ありえないだろ』と頭に来ることがたびたびありました。だって、国民を切り捨てているのと同じじゃないですか。この状況の中で生きられる人だけ生きてください、ダメな人は残念だけど淘汰しますと言っているようなものですからね。弱き者を切り捨てて、この勝負に勝ち残っていける人だけが優遇される。もしかしたら、それが資本主義の行き着いた先なのかもしれないと思うと、社会の構造自体が問題なのでしょう」
資本主義は誰でも豊かになれるチャンスがあるシステムだと思っていたら、弱者を切り捨てるシステムだったという。
「結局、力がある者が得をして力がない者が泣く、量を持っているものが得をして量を持っていない者が泣く。そこから脱却しないと、この文明は先がないと思います。真の意味での精神的な調和、本当に幸せになるための選択をすべての人ができる世の中にならないと、生まれてきても苦しいだけのものになってしまう」
精神的な調和や本当の幸せを得るためには、音楽が必要?
「音楽だけではないですけどね。あらゆる表現は、僕らが生きるために絶対に必要なものだと思います。もちろん、まずは食べるもの、住むところなどの命を繋ぐことが最重要で、生存していくための環境を整えることが優先されますが、それが確保された後、何も文化がなかったら人は死んでしまいますよ。音楽、演劇、映像、文学、絵画、ファッション、スポーツ、そういった芸術やエンターテイメントが何もない人生って考えられないでしょう? 僕らがやっていることは、まず生存が保障されて初めて成り立つものだけど、人々が幸せになるためにはもっとも重要な役割なのではないか、と思っています」
このコロナ禍にインスパイアされて作ったものってありますか?
「今ちょうど次のアルバムを作っているところなのですが、まさにポストパンデミックをテーマにした、アンビエントものになる予定です。本当は今頃、次のアルバムのレコーディングが佳境を迎えていたはずだったんです。国内外のジャズやソウル畑の人たちとのセッションを中心としたアルバムで、レコーディングでロンドンに、撮影でパリやニースに行く予定もあったのですが、当然全部流れてしまった。それで、ほぼ自分1人で作れるものに切り替えたんです。ちょうどコロナ禍の真っ只中だったので、これが収束した時に皆の癒やしになるような赦しの音楽、救済の音楽を生みたい。今まで作ったことがないような優しいものにしたい、と思っています」
「赦し」とは、具体的にどういったことなのでしょうか。
「〝赦し〟こそ、すごく重要なキーワードだと思うんです。まずは、自分自身を赦し、認めてあげること。今の状態でよくやっているよ、いつもギリギリで頑張っているんだから、1回ゆっくりしてもいいんじゃない?って。僕は『こんなものじゃない』っていつも思っているんだけど、そうやって向上心ばかりにとらわれていると、最終的に自分は無力だ、非力だという発想に辿り着いてしまうんですよね。なので、ちょっとスイッチを変えて、自分はよくやっている、世の中に貢献している、偉いよって認めてあげる。一人一人がそうすることで、世の中は少しポジティブに変わると思います。あとは、他者に対しての〝赦し〟ですね。要は〝罪を憎んで人を憎まず〟的なことなのですが、どんなに酷い人や物事に対しても憎しみに苛まれないことを心がける。憎しみは憎しみの連鎖しか生まない。安倍(晋三)さんだって、麻生(太郎)さんだって、菅(義偉)さんだって、飲んだらかわいいオジサマだと思う。彼らがどれほど非道で利己的な権力に取り憑かれた人たちでも、知り合いになればいい人かもしれない。そう思っています。今の人種差別問題についても同様で、過去に黒人の人たちがひどい仕打ちを受けてきたのは紛れもない事実だけど、『今までひどい目に遭ってきたから今度はお前たちを同じ目に遭わせてやる』というやり方には、僕は賛同できない。過去の対立を卒業して『これからは仲良くやろうよ、今までのことは許すから』ってみんなが言えたら素敵だと思いません? 世の中の人がすべて、知り合ったら、飲んだらいいヤツじゃんみたいな、そういう感覚になれたらいいのにな、と思う。今回のアルバムを作ろうと思ったのは、自分の今の精神がそれを欲しているからなのかもしれない。そう考えると、この状況の中で作りたいものがどんどん生まれてきています。年に2~3枚アルバムを作らないと追いつかないくらい。良くも悪くも、奮い立っている感じですよ」
それがクリエイターのすごいところですよね。
「本能だと思う。逆境の時にこそ、アイデアが生まれる。だから、コロナ鬱というのは、僕の場合はまったくないです。今だからこれをやらなきゃ、勉強しなきゃ、伝えなきゃって、逆にパニックになっている感じ。頭を使いすぎてシューシューいっていますよ」
我々は微力だけど無力じゃない
SUGIZOさんが支援している難民キャンプでは、コロナの影響はどうですか?
「非常に危険な状況ですね。難民キャンプは普通の街よりも衛生的に問題があるし、医療体制も脆弱なので、すごくリスクが高いです。あと、例えばバングラデシュにはストリートチルドレンがたくさんいて、衛生上も医療体制も劣悪な中で、プラス家がないという。ステイホームすらできない子どもたちがものすごくたくさんいる。結局、こういう状況になると、世界の弱き人たちが最もリスクにさらされるんですよね」
ただでさえ日本人は支援活動に興味がない人が多い中、今はさらに支援が訴えにくい状況になっていると思いますが、これはどうすれば?
「パンデミックが収束に向かうのを待つしかないのではないでしょうか。さすがに自分を投げうってまで困った人を助けようという人は少ないだろうし、他人に手を差し伸べる前に、まずは自分たちが安全な生活が送れて、健康を憂慮しなくていいような状況になることが大事だと思います」
今回のコロナ禍で、印象に残った出来事を1つ挙げるなら?
「やっぱり、検察庁改正法案を廃案に追い込んだのは、すごく意味があった行動だったと思います。我々は微力だけど無力じゃないということが証明できたし、あのハッシュタグがものすごい数になったことによって、その後何が起こったか知っています? Twitterのハッシュタグの数が、ある時期記載されなくなったんですよ」
可視化されるとまずいから?
「そうだと思います。日本の政治や芸能を仕切っている勢力が、抵抗してきているとしか思えない。だから、声を上げることに意味はあると僕は思っています。そうすると誰かが攻撃の的になるのですが、それで世の中が良い方向に変わるのなら、僕が的になってもいいと、そういうつもりでやっています。多くの人はリスクを背負いたくないから、言いたいことがあっても口をつぐんでいる。本当は心の中でモヤモヤしていても、それを発信すると人からどう思われるかを先に考えてしまう。人から悪く思われたり、何かを言われたりすることを恐れて自分を表現しないなんて、生きている意味があるの? と思う。人を罵倒したり、傷つけたりすることをわざわざ言う必要はない。そのモラル、倫理観は最も重要です。だけど社会、世の中、この国、この惑星に対して、ポジティブな意志を持った発言はしていくべきです」
最後に、この記事を読んでいる人に問いを立てるとしたら?
「『みなさんにとって、本当の幸せとは何でしょう? 本当に求める幸せとは何ですか? どうすればそれが手に入ると思いますか?』ということでしょうか。僕だったら、自分が幸せでも、横の人が苦しんでいたらその幸せを満喫できない。本当に自分が安心感や幸福感を得るためにもすべての人に幸せになってほしいから、いや、人だけではなくすべての命、すべての生きとし生けるものが幸せな世界を求めているからこうやって動いているのですが、みんなはどうなんだろう? 自分や自分の家族だけが、自分の国だけが幸せならいいのでしょうか? 世の中の全てが幸せになることができたら素敵だと思いませんか? 僕は社会が真の幸福感を享受できる時代になるための歯車というか、カンフル剤のような存在でありたいなと思います」
SUGIZO
作曲家、ギタリスト、バイオリニスト、音楽プロデューサー。 日本を代表するロックバンドLUNA SEA、X JAPANのメンバーとして世界規模で活動。同時にソロアーティストとして独自のエレクトロニックミュージックを追求、さらに映画・舞台のサウンドトラックを数多く手がける。
音楽と並行しながら平和活動、人権・難民支援活動、再生可能エネルギー・環境活動、被災地ボランティア活動を積極的に展開。アクティビストとして知られる。
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インタビュー:ジョー横溝
2020年7月15日東京にて