音楽が夢や未来を捨てたら終わりじゃん

TOSHI-LOWさんは、コロナ禍にどんなことを考えていたんですか?

TOSHI-LOW「結局さ、新しく切り拓いている時に新しい困難を受けるのは、歴史を見れば当たり前で、そのたびに新しい不治の病みたいなものがでてきたりして、今まできているわけでしょ。そう考えると、しかるべきものが来てしまったっていうかさ。〝そうだよね〟って言うしかないんだよね。便利になったらなっただけの代償はあるし、いろんなものを捨てて、変化するスピードが早くなった分、いろいろ起こるよね。要は車に乗るようになったが故に、スピードで死ぬみたいなことでさ。車がなかったら事故で死なないじゃん。利便性を得るために命を引き換えにしてしまうっていうのが、人間の危うさなわけで。だから、何を本当に大事にするべきなのか、俺は一度立ち止まって考えたほうがいいと思うけど、なかなかそうはいかないよね」

311の時も、変わらざるを得ないと多くの人が思ったのに変われなかった。結局、僕たちはまた変われないのかなとも思ってしまいます。

TOSHI-LOW「俺、そもそも終末思想を持っているから。たぶんこれを言っちゃうと元も子もなくなるけど、〝滅びる時は滅びる〟と思ってるの。自分も含めて。人間の自業自得だよ。みんなで死ぬんだったら、それはそれでしょうがないでしょうっていう。結局、自分たちが作ったもので死ぬんだから。核のボタンを押したのと一緒なんだよ」

確かに。世界がこんなに移動網で結ばれていなかったら、世界同時パンデミックはなかったのかもしれないですし。

TOSHI-LOW「うん。でも、こんなに移動手段もツールも広がっているんだから、もっと人と人が相譲れそうなのに、ぜんぜんそうならないよね。自国ファースト主義になるとか、人種や国で差別するとかってことが起こってる。俺らが『肌の色や目の色なんて関係ねぇよ』とかピースだとか言ってたのと、真逆のことが起きているわけじゃん。だから、何が起きればいいのかっていうと、滅びる時が来たならそうなるしかないんだよ。俺はギリギリまで生きる努力はするけど。これ、載せなくていいからね」

載せたいです。

TOSHI-LOW「やだよ。俺がこれまでひた隠しにして、頑張ろうとしている営業上の顔があるのに(笑)」

一番言ってほしいところなのに。

TOSHI-LOW「やだって。音楽が夢や未来を捨てたら終わりじゃん(笑)」

人類共通の敵がやってきたら、もっとみんながユナイトするのかなと思った部分があったんですが、今回の差別の問題などを見ていると、やっぱりできないんだな、とも思いました。

TOSHI-LOW「しないどころか、自分だけは助かりたいっていうね。もしかしたら、そういう人の割合ってずっと変わってないんじゃないかって思うんだよね。例えば、『はだしのゲン』でも戦中にさんざん『非国民だ』って人に言ってた〝非国民おじさん〟たちがたくさんいたわけじゃん。それが終戦後には〝民主主義おじさん〟に変わったわけでしょう、風見鶏みたいにさ。そういう人間って常に一定数いるわけで。
だから、本当は教育の問題でもあると思うけど。あとは何が問題だろう? 例えば、アートとか美とかっていうのは、社会意識と違う、想像力で広がるところじゃん。そういう芸術作品を見て、自分の中の恍惚感だったり、安心感だったりを得られるわけで。それって、自分が作り出せるものとか、自分のこの掌の中の範囲以外のもので、自分を満足させる何かが世の中にはたくさんあるかもしれないってことでしょ。それは希望になる気がするんだよね。でも、そういう部分の脳みそが、近年の教育とか何やらで萎縮したんじゃない? お金にならないものは、意味がないっていうようなさ。
『何のために音楽やってるの?』って問いに対してもさ、何のためもクソもないじゃん。自分が弾きたいから弾いて、歌いたいから歌う。本来それでいいはずなのにね。そういうふうに自分の中だけの良さを見つけ出すのが、人間の幸せの在り方だと思う。なのに、幸せの価値観が成功の価値観と入れ代わって、お金を持つこと、名声を持つこと、無駄に長生きすることに置き換わっちゃったから。本来思ってた幸せの価値観と大きくずれているよね」

なるほど。……あ、細美さんいらっしゃいましたね。

細美武士「待たせちゃったね」

TOSHI-LOW「もうだいぶ核心を話しちゃったからさ。世界は滅びるっていう結論で」

でも、そこは使っちゃダメなんですよね?

TOSHI-LOW「そうだよ。俺が今ひた隠しにしていることだから(笑)」

 

2020.2.29 BRAHMAN「卍巴」名古屋red dragon Photo by Maki Ishii

この普段と違う状況からでも、学ぶことは絶対にある

細美さんは自粛期間中に、まず何を思いましたか?

細美「いかに日頃せせこましく生きてたのかなって考えたよね。ELLEGARDENが休止して、the HIATUSが始まってからは、馬車馬のようにやってきたから。毎年1~2月は休みが取れるけど、(フェスの)シーズンに入ると休みなんて月に1日あるかないかで10年以上やってきたから。言葉にするのは難しいけど、単純にもう少し人生の時間の使い方を考えて生きないとなって。もちろんウイルスとかのネガティブな出来事がなくても、それに気づけていれば良かったんだけど、強制的にこういうことがない限り気づけないよね。たとえコロナが収束したとしても、そこは考えたほうがいいかなって。活動のペースを落とす以外にも、自分の時間を大切にするやり方はあるからさ」

ノンストップでしたもんね。

細美「何かしてなきゃ、みたいなね。あとは、こういう時期って仕事だけの付き合いじゃない人間からの連絡も増えるじゃん。ライブで日本中まわらなくなったから、会えなくなった人も多いし。そうすると、誰が本当の友達で誰がそうじゃないかっていうのが浮かび上がってくる。用もないのに電話くれるヤツは嬉しいなって思うし。突っ走り続けていたら見えなかったことが見えた側面はあるね」

TOSHI-LOW「一緒だね。コロナは1つのきっかけでしかないから。その前にあった震災と原発事故で、改めて、日本のミュージシャンが一人でできないことができる仲間の必要性がわかった部分があったでしょ。今回のコロナも俺は同じように思ってる。
アルバムを作りながらライブをやっていると、自分の時間なんてないしね。そのままやってると、だんだん作り出す音楽が薄っぺらくなってくるっていうか。結局、音楽は人間の断面図だから。初期の音楽っていびつだけど、何で未だに好きですって言ってくれる人がいるかっていうと、そこまでに溜めていたのがむちゃむちゃ濃かったからだと思うんだよね」

助走期間が長かったから?

TOSHI-LOW「むっちゃ長いのよ。いつかやってやる、みたいな」

細美「言いたいことも強烈だしね」

TOSHI-LOW「そう考えると、もう一回その濃さを取り戻すのにはいいんじゃない?って思う。俺、一度あるフェスをやってるヤツに『一回、休みな』って言ったことがあるんだよね。『毎年、何で無理してやらないといけないの? 2~3年溜めてまたやってもいいじゃん』って。そういう意味でも、実は一度立ち止まる必要があると思ってたの。今回、強制ボタンが押されたからさ。それはそれで考えるべきなんじゃないの?って」

初めて立ち止まって考える時間ができた、っていう部分はあるかもしれない。

TOSHI-LOW「だから今、止まっているのはいいことだと思うよ。漢字で〝正しい〟っていう字は、一に止まるって書くじゃん。俺たちは止まったことがないから、本当は正しくないのよ。動き続けてきたから。で、〝動く〟に〝人〟がつくと〝働く〟なんだよ。今の止まっている状態は、働いてはいない。働いていないと、本当の感動はないんだよ。だから矛盾しているけど、回遊魚みたいにずっと動き続けていくっていうのも、正解なわけ。俺たちはどこかで動き出さなきゃいけないけど、今は一度止まって、正しさを知るための時なんじゃないかって思う」

細美「こういう話をしてると勘違いする人もいるかも知れないからちゃんと言っておきたいんだけど、当たり前だけど、俺もTOSHI-LOWもコロナがあって喜んでるわけじゃないよ。そんなわけないじゃん(笑)。だけど俺はポジティブな側面をなんとかして探したいって気持ちはどんな出来事に対してもあるし、ネガティブなところばかり見ていても、そもそも自力で解決できるわけじゃないからね。俺がワクチンを作れるわけでもないしさ。だから、この普段と違う状況からでも、学ぶことは絶対にあると思ってる。そうしなければ、今起きてる悲しい出来事はただ悲しい出来事で終わってしまう。でも、そういうことを簡単には言いづらい風潮があるよね。『コロナからでも学ぶことはある』って言うと、すごいバッシングを受けるんだよ。『亡くなっている人もいるんですよ』って。言い方悪いけど、そんなことは俺もわかってるつもり。でも、〝戦争から学ぶことなんて何ひとつない“っていう発言は、そういう意味じゃないと思うんだよな。学ぶために戦争するヤツなんか、そりゃあいてもらったら困るよって思う。ただ今もう起きてしまっているこのコロナからは学ばなきゃいけないし、それを次の世代に伝えることは意味がすごくあるはずだよ」

TOSHI-LOW「どんな状況でもそうだと思うよ。究極、戦争だろうがさ。なんで俺たちがそういうふうに考えるかっていうと、そもそも〝どんな状況でも生き抜いてやろう〟という意志があるから。それは別に今回のことを楽天的に見ているわけではなくて、俺たちが〝何が何でも生き抜かなきゃいけない〟という思いと〝ダメなものはダメなんだから〟という思い、どっちも持っているから。弾が当たったら人間は死ぬし、たまたま家の前に爆弾が落ちたらしょうがない。だけど、落ちるギリギリまではどうにかしてやるって思ってる。それと一緒だよ。コロナをなくすことはできないんだから。今の状態でできることがないなら、観たかった映画を100本観るでも別にいいわけじゃん。〝あの映画で見た、あのやり方は使えるかも〟って発見もあるかもしれない。それでいいんだよ。
俺はいつも〝今を楽しまなきゃいけない〟って言ってるけど、結局、最終的には死が待ってるわけじゃん。それは明日来るかもしれない。だから、過去でもないし、その先の未来でもない、今を充実させなきゃいけないって言ってるんだよ。……ってところまで言えば、冒頭の終末思想の話も使えるかな(笑)」

TOSHI-LOWさんの根底にあるものが少し理解できた気がします。

TOSHI-LOW「あとはさ、終わるときは終わるんだから、振り向いたって仕方ないじゃんとも思うよね。例えば、大好きなお店が潰れちゃっても、どうしようもできなかったもん。2回出前したくらいじゃダメだったかって(苦笑)。3回したら潰れなかったかっていうと、そうでもないでしょ。店をやってたおじさんも、ひょっとしたら辞め時を探していたのかもしれない。それで、違う場所に住んで、ゆっくり自分の人生を見つめ直すっていう老後があるかもしれないし、またもう一回苦労するのかもしれない。それも人生じゃないかな。どっちにしろ、生きている限り、すべて行ったり来たりしながら進むんだから。コケても、すりむいてもまた立ち上がって、絆創膏を貼ったりしながら、もうちょっとやってみる? っていうさ、それが充実した人生だと俺は思ってるから」

 

2019.9.19 the HIATUS「Our Secret Spot Tour 2019」Zepp Osaka Bayside Photo by Tsukasa Miyoshi (Showcase)

思い切って変わって、生き抜いてほしい

ずっとライブハウスでやってきたお二人にとって、ライブができないというのは、表現者としては不完全な状態とも言えるわけですよね。それについては?

細美「でもそもそも俺たちはマスを相手にやってるわけじゃないからね。俺たちが〝これ面白れぇな〟って何か始めると、人がそこにどんどん集まってきて、そのうちどうしようもねぇバカも寄ってきてつまんなくなって、イチぬけたってのをさんざん繰り返してきてるわけじゃん。ライブハウスは奇跡的にそうなっていないけど。常に自分たちが面白い遊びを次から次に生み出してきた中に、ライブもあるわけ。俺たちにとってライブは仕事じゃなくて、遊びだからさ。だから、俺は俺のやりたい遊びをずっとやっていくと思うし、今までの遊び場が使えなくなったら、別の場所で別の遊びをするだけなんだと思うよ。ライブハウスには仲間もたくさんいるから、どうやってそいつらに導線を引いて金を落とすのかはもちろん考えるけど。でも、もともとアイデアで困るような生き方はしてないから、〝ライブハウスがなくなっちゃったら、俺たちの表現の場がなくなっちゃう〟なんて思わないね」

TOSHI-LOW「もちろんライブハウスは、大事な場所だよ。だからこそ、変わらなきゃいけないなら、変わればいいと思ってる。思い切って変わって、生き抜いてほしい。自分たちが関われるところは手伝うけど、そうじゃないところは何もできないから。ライブハウスのために何かをするんじゃなくて、自分たちがまたそこに出てほしいと言ってもらえるアーティストでいることが大事だと思ってるし。とは言っても、BRAHMANなんかは三密が作り上げる音楽みたいなところがあるから(笑)」

細美「ソーシャルディスタンスゼロだよね」

TOSHI-LOW「もちろん配信とか、ソーシャルディスタンスを守ったかたちで、ライブハウスでやるかもしれない。こういうやり方ならやれるなってわかったら、俺もみーちゃん(細美)もすぐ動くよ。だけど、一方で俺は、一生あの光景がないならBRAHMANは終わりでも仕方ないと思ってる。それも考え方のひとつだよね。最後のライブはMONOEYESとできたから、何の悔いもないの。だって、そもそも毎回最後だと思ってやってるんだから。このコロナのことが突然来たとも思わないし。たまたまここだったんだな、道半ばで終わるんだなって思うだけで。納得はしてる」

細美「TOSHI-LOWはずっとそうだよね。BRAHMANのライブの時、会場に俺がいるとTOSHI-LOWがステージに呼んでくれるじゃん。あれもお客さんによっては〝何で毎回、同じことやるの?〟って思うかもしれない。でも、別に俺らはお客さんのためだけにやってるんじゃないんだよ。TOSHI-LOWがライブをやっていて、俺が横にいたら行くでしょっていう。前にTOSHI-LOWが言ったんだよ。『こうしてライブの現場と時間帯が重なって、ステージに呼び込める回数があと何回あるか数えてみたら、きっともう多くないんだよね。だから、チャンスがあったら毎回やりたいよね』って。コロナ以前から言ってるからさ。
あと10年はできると思っていた人が、突然に何もできなくなるのはキツいと思うよ。でも、俺たちはもともとそんなこと思ってなかったから。〝これで最後でもいい〟って、本気で毎回思ってたし、今でもそう思ってるよ」

TOSHI-LOW「逆にいうと何を根拠にあと10年やれると思ってるの?って。突然、病気になるかもしれないし、わからないじゃん。未来があるっていうことは、それだけリスクもあるってこと。自分の命がいい状態で長く続く保証はないんだから。だから、可能な限り何が起きても対応できるようにしておくっていうのが、未来への備え方だと思うわけ。ガンジーが言ってた『明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ』っていうのは本当にそのとおりだと思う」

細美「そもそも日本はここしばらく平和で、経済も悪くなくて……っていう状況だったけど、それが一瞬でなくなるとか、突然ガラッと世界が変わるようなことが起きるのは、うーん……。きちんと言い表せてるかわからないけど、わりと想定の範囲内だと思って生きてきたからかなあ。例えば、会社の収入が半年や一年なくなったとしても、もともと俺たちの仕事ってそのくらいは普通に起こりうる出来事だったんだよね。だから、常に備えてたし、『最高の時間を一緒に作ろうぜ。ただいつまで続くかは、悪い、保証できないわ(笑)』っていつも言ってきたつもりだし。ボケっとしてたら、何かあったら対応できねぇもんな、って」

お二人は、震災をはじめ日本各地で災害などが起こると支援に行っていましたよね。コロナ禍では、助けを必要としている人のところに実際に行ってあげられないという状況でしたが、そのもどかしさは感じましたか?

細美「もともと俺は自分がやりたいことをやっているだけで、人のために何かをやるなんてことはないからなぁ。だからそもそも〝してあげる〟みたいな感覚はないね。(感染を防ぐための)移動制限については、当たり前だよ。俺が年配の人にコロナをうつして、その人が死んじゃったら責任取れないもん。自分が被害者にしかならない状態だったら、行くなって言われても行くかもしれないけど、その逆はできない。自分のせいで誰かが大切な人を亡くしてしまうような行動はしたくない。今は行くべきじゃないと思えば行かないし、行くべきだと思ったら、何を言われても行くだろうから、そういう意味では要請とか、ハナからちゃんと聞いてないのかもしれないね(笑)」

TOSHI-LOW「ライブを自粛してるのもさ、演者の俺たちはどうなってもいいんだよ。でも、客が観にきて傷つくことはわざわざはしたくない。今のこんな状態で、わざわざ感染を広げる可能性があることをやる必要はない。ただ、悪いけどやりたくなったらやるから、『やめろ』って言われても」

細美「それは選択肢としてあるべきだよね。例えば『コロナはインフルエンザみたいなもので、過度に警戒する必要はない』っていう人がいたって、その人が自分で真剣に考えて自分の行動の責任を取ろうとしてる限り、否定する根拠もないわけじゃん。だから俺は〝全員の考えがこうあるべきだ〟なんてまったく思わない。それと同じ理屈で〝じゃあ自分はどうするんだ?〟ってことはちゃんと考えておきたい。俺はもう少しでアルバムを作り終えるから、そうしたらきっと遊びたいし、酒も飲みたいし、いろんなところへ行きたいと思うんだろうけど、それと同時に、今ここで判断を間違えたくない、ってふうにも思うだろうからね。だから、その両方が叶えられる遊び場をどうにか生み出せないかと必死で考えを巡らせたりすると思う。工夫はしないとね。そもそもライブって、工夫して、文化を積み重ねてやってきたんだから」

海外のアーティストがウユニ塩湖から配信していましたよね。ものすごい絶景なうえに、時間帯によって景色も変わるっていう。

TOSHI-LOW「今、思いついちゃった。the LOW-ATUSでマジックミラー号」

AVで使うヤツですか(笑)?

TOSHI-LOW「そうそう。マジックミラーの車の中で演奏するんだよ。どんどん動くから、背景が変わるじゃん」

細美「なるほど。外からは俺たちが見えない」

TOSHI-LOW「発明だって思った(笑)。どこまでも行けるじゃん。やろうよ」

細美さん、流してますね(笑)。

細美「ここ広げてもどうせ記事で使わないじゃん(笑)」

 

2019.8.24 BRAHMAN+細美武士「WILD BUNCH FEST. 2019」山口きらら博記念公園 Photo by Maki Ishii

〝新個人主義〟みたいなものができたらいい

冒頭にTOSHI-LOWさんが言っていた終末思想の話とか、さっき細美さんが言っていた、世界がガラッと変わることは想定の範囲内だと思って生きてきたっていう話を聞いて、どうしたらそういう考え方をできるようになるんだろうって思ったんですけど……。

TOSHI-LOW「別にこういう考え方する必要ないでしょ(笑)」

例えば、終末思想の話を聞いて『デビルマン』が思い浮かんだんですが、そういうカルチャーから受け取ったものがあるのかなって。

TOSHI-LOW「永井豪ね。例えば、手塚治虫もそうだし、優れた表現者の人って、優れた予言者でもあるじゃん。ジョン・レノンしかり、ボブ・マーリーしかり、(忌野)清志郎しかり。彼らは大衆がいざと言う時に何になるかっていうのが見えているわけでしょ。『デビルマン』で、魔女狩りをする大衆が主人公の居候先の家族を惨殺して、ヒロイン的な長女の生首を槍にさしてかかげるシーンがあるじゃん。ああなる危険性をわかっていた表現者たちが蒔いていた小さな種を、拾った俺たちみたいな人間がいるってことなんじゃない? 俺たちも、小さい種だけど、蒔き続けると思う。そうすれば、世界の100%は悪くならない。1%でも2%でも良くなるんじゃないかって」

細美「きっと日常って一瞬で終わるものだからさ。徐々に危ないなっていう予感を感じさせずに、パタッと終わっちゃうんじゃないのかな。そういう経験が過去にあるかどうかで、次に備えようと思うかどうかは変わってくるんじゃない? 俺はそういうの、思い起こせばあるし、TOSHI-LOWも絶対にあると思うよ」

生まれながらには思っていなかった?

細美「それはわかんないけどね。だから、若い時に人生がひっくり返るような経験をしたことがあるヤツは、大変だっただろうけどそこを生き延びられたんなら、ある側面ではプラスになることだってあるんじゃないかと思うよ。言葉は良くないかもしれないけど。強くならざるを得なかっただろうし、超えなきゃいけないものがあったってことだから。
さっきTOSHI-LOWが言ったように、それをリアルに経験した人たちが描く作品や物語の中には、その遺伝子みたいなものが入るわけじゃん。誰の音楽だってその歌詞の中に、リアルな瞬間とか、トラウマみたいなものが入ってるわけだからね。ただ、そういう出来事によって、誰のことも信用できなくなっちゃったり、乗り越えられなかった人たちもたくさんいるだろうから、簡単には言えないけど」

細美さんがそこで思いとどまれたのは、音楽があったからなんですか?

細美「違う、違う。信じられる人間と出会えたから、俺はラッキーなんだよ。知っての通り、俺は人当たりが良くないじゃん。だけど、繋がったら一生だからさ。俺は大人になってからTOSHI-LOWみたいなマブができたのはラッキーなんだよ。それは、もう本当に運だと思うね」

では、最後にコロナ禍で印象に残っている景色や、言葉があれば教えてください。

TOSHI-LOW「人類が発達してどれだけ便利になっても、一番大事なものはトイレットペーパーだったってことかな(笑)」

細美「そうだね(笑)。あと、良くも悪くも一番印象的なのはアベノマスクじゃない? 今もとってあるよ」

数百億円の税金を使っていますからね。

細美「まぁ、政治が理想的に機能していないことに関しては、〝逆にそんな政府って世界のどこかにある?〟ぐらいに思っちゃう自分もいるけどね。トランプやドゥテルテじゃないだけで、まだ俺たちはツイてるんじゃないだろうかとか変なこと考えちゃう時もあるし(笑)。
俺はわりと世界の政治の話やいろんな問題に興味があるから、世界のニュースを今でも見てるけど、そうすると結局どんどん自分の人生と向き合っていくことになるんだよね。で、〝お前はどうなの?〟って突きつけられる。
俺は自分が差別をされたくないから、どこの国の人だろうが国籍だけで判断はしないし、LGBTの友達も当たり前にいる。だからってみんながこう思うべきだっていう考えはめんどくせぇっていうか、それじゃあ結局同じじゃん、って思う。〝俺がこうありたいだけだから、まあほっとけよ〟みたいな。だから、意見の違うヤツが俺に〝あの国のヤツらは良くないんだよ〟って言ってきたとしても、〝うるせえな、俺はお前じゃねえんだよ〟って思うんだよね」

TOSHI-LOW「今言ったみたいな個人主義的な感覚ってさ、俺たちは個人主義的な商売をしてるから、そもそもあるわけじゃん。周りにも多いし。だから、全体主義的な〝ひとつになろう〟みたいなほうが逆に気持ち悪い。ただ、一方で、一人では何にもできないこともわかったから。若い時は一人でいいよ、死んでいくよ、とか思ってたけど、結局一人ではできないっていう無力さもわかった。それは冒頭でも話したように震災がきっかけで、今、仲間と協力できる感じはすごくある。でも、それって絶対的にみんなが個人だって認めるところから始まるわけじゃん」

相手を尊重して、認めるからこそ、協力できるっていう。

TOSHI-LOW「でも、個人を尊重するって言っても、〝○○人はこうだからダメなんだ〟っていうような差別心を持つヤツに対して〝差別する心を持っていてもいいよ〟とは思えないよね。〝ここにいるヤツらはこうだ〟ってひとくくりにすることへの反発があるから。日本人だって、これだけの人がいたらひとつにはくくれない。だから、俺は、そうやって個人主義を扱えない、繊細さのない感覚のヤツが嫌い。黒か白か、なんてことはないわけじゃん。その間にいろんな名前のグレーだったり、白でも生成りみたいな色だったり、黒でも濃淡があるのに、〝お前には、白と黒にしか見えないの?〟っていうさ。それは人間の感覚として下だなと思う。なんていうか、図工の成績「1」(笑)」

グラデーションが見えない人間が嫌だっていうことですか?

TOSHI-LOW「そう。俺はそういうヤツが嫌いでいい。好き嫌いはあっていいじゃん。
俺は、早く世の中に〝新個人主義〟みたいなものができたらいいなって思う。今、選挙に行かない人が多いことを逆利用して偉くなる人がいっぱいいるじゃん。だから、そうではない、民主主義から派生する新しいかたちのものができた上に、新しい個人主義ができたらいいと思う。個人として〝よく生きる〟というのは、結局〝善く生きる〟ということなんだと思う。例えば、自分の家の前にゴミを捨てたりしないでしょ。それは自分が汚いと嫌だっていう理由だけじゃなくて、横の家の人や通りすがる人のことも考えなきゃいけないから。要は、自分のために社会を見直していくような、そういう意味での個人主義。そういうものが、もっと確立された世界にならないかなって。俺はみーちゃん(細美)に島を買ってもらって、そういう場所を作ってもらう。で、最終的に、おじいちゃんになったらそこに住むから」

細美「その島では通貨なんか、絶対作らないね」

TOSHI-LOW「そう。基本スキルトレードで生きていく。俺たちは歌を歌って、野菜とか、本土から流れてくるものをもらって生きてくっていう」

島を買うのは細美さん?

TOSHI-LOW「もちろん。だから、次のアルバムは売れてほしいっていうのが今回の締めかな」

細美「そうだね。レコードが売れて島が買える時代は終わったけど(笑)」

 

2020.8.6 the LOW-ATUS「TO FUTURE GIG 2020」広島中央公園内ハノーバー庭園 Photo by Maki Ishii

 

細美武士

1973年、千葉県生まれ。ELLEGARDEN、the HIATUS、MONOEYES、のギターボーカルとして活動する。
https://www.takeshihosomi.com/

*プレイリスト
「What Could’ve Been」Gone West
「My Favorite Song」ELLEGARDEN
「Redemption Song」Bob Marley

TOSHI-LOW

1974年、茨城県生まれ。BRAHMANのボーカル、OAU(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)、the LOW-ATUSのギターボーカルとして活動する。
http://tc-tc.com

*プレイリスト
「明日なき世界」RCサクセション
「ラストダンス featuring ILL-BOSSTINO (THA BLUE HERB) 」BRAHMAN
「光の天使 Children Of The Light」Rosemary Butler


インタビュー : ジョー横溝
2020年6月28日東京にて