「私たちに根本的な変革をする覚悟はあるのか?」(小川)

メディアでも報じられていますが、福島第一原発構内の「処理水」※1の貯蔵が2022年の秋に限界に達するため、現在、放射性物質のトリチウムを含む処理水の海洋放出が検討されています。※2

小川「野党とはいえ、国会に席を預かる人間として、重い責任を感じています。今、トリチウムの濃度は放出可能な濃度の約10倍なので、10倍に薄めれば科学的には流していいことになりますが、そうした科学面とは別に、風評被害なども含めて、政治的・社会的に受け入れられるか、という人間の心理の両面から解決しなければいけない問題ですよね」

同感です。でも、すでに皆さんご存知だと思いますが、福島の原発は東京に住んでいる私たちのための電気を発電していました。それで、事故を起こしたら「申し訳ないけど、汚染水も捨てていい?」という話になっている。僕らはそれを福島にお願いしていいのか。

小川「全ての問題がそういうことです。原発もそうですし、ゴミ焼却場も〝必要だけど近所には来て欲しくない〟、沖縄の米軍基地も〝日米安保は理解できるけれど、近くには来て欲しくない〟とみんなが思っている。これは本当に政治的・社会的ジレンマですが、本当はそこに頼らなくてもよい社会に1つステージが上がらなければいけないと思うのですが、なかなかそこへ行けない。そうしたジレンマの凝縮が原発問題なんじゃないか、とも感じています」

SUGIZO「今、僕は文明として頭打ちだと思うんです。戦後ずっと、僕らはGHQ政策の影響下にいます。日本のカルチャーの在り方を見ても、結局アメリカが親分で僕らは子分なんです。原発の問題もその一つだと僕は認識しています。だから、もちろんトリチウム水も今後の廃炉の在り方も目の前に迫る問題だけれど、それと同じくらい我々の社会の根底から大きくシフトしていく道にみんなが目覚めて変えていかないと、この先はないと思ってしまいます」

日本はかつて原爆を落とされ、311で原発事故も経験したのに、なぜこの国から原子力がなくならないのか。その根本的な原因が「日米安保条約」です。つまり「日本はアメリカの核の傘の下にある」からです。原発事故を経ても、日本が「核兵器禁止条約」に署名できないのは核保有国アメリカに忖度をしているからです。その前提プラス3つほど原発がなくならない理由がある。
1つが抑止力。いつでも核兵器が作れるというスタンスを核保有国に示しておく。2つ目がエネルギーの安定供給。再生可能エネルギーだとバックアップが必要なので、そのために原発は動かしておかなければいけない。3つ目が原発自体の経済性。原発の廃炉にも莫大なお金がかかるから、「可動させて利益を上げて自分の葬式代は自分で出させましょう」ということです。小川さん、補足などがあればお願いします。

小川「どれもその通りだと思いますが、その理由で本当に説得される人がいるのでしょうか。コロナ対策においても〝検査を拡大すると偽陽性が出る〟とか〝費用がかかる〟とか、もっともらしいことを言う人がたくさんいます。でも、結論ありきの〝検査しないための理屈〟に聞こえてしまい、それに本気で説得される気にはならないですよね。
私が思うのは、もう原発から卒業するのは当たり前で、早急にやらなきゃいけない。同時に考えなくてはいけないのが、〝震災後の約10年、ほとんどの原発が止まっているのに、なぜ電気は止まっていないのか〟ということ。もちろん再エネが少々増えたこともありますが、圧倒的に化石燃料を使っているからです。化石燃料を燃やすということは、二酸化炭素の発生を促し、地球温暖化を加速させます。この現実を見ると、原発さえ止めれば全て解決するほど単純な問題ではありません。SUGIZOさんがおっしゃったように、私たちに根本的な変革をする覚悟、用意はあるのか、と突き付けられているのだと思います」

SUGIZO「全く同感です。日本は去年10月に菅(義偉)政権がやっと〝2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする〟と宣言しましたが、遅かったですよね」

小川「もう最終列車ですよね。しかも、本気度が感じられない」

SUGIZO「僕らに響いてこないんですよね。世界に後れを取りたくないとか、世界にどう見られるかを忖度して決定しているようにしか見えなくて。実際、世の中はあまり変わっていないですよね。根本的には、脱炭素社会や温暖化防止を目指さなければいけないとわかっていると思いますが、本当に未来や地球のことを考えているようには到底思えない。結局、経済の原理でしか物事ってシフトしないじゃないですか。資本主義の現在は、絶対にそこから逃げられない。でも、それをいい方向に考えると、ビジネスとして再エネは大きくなる可能性を大いに秘めていますよね」

小川「それでいうと、現状、問題点もあります。2012年の民主党政権時に再生可能エネルギーの固定価格買取制度ができました。自宅に太陽光発電機を付けると、2倍の値段で発電した電気を買い取ってくれるという制度です。これで太陽光発電はずいぶん広がりましたが、みなさんが払う電気代が約1割増しになってしまった」

収入が少ない人も含めて、電気を使うすべての人の利用料金が上がり、設備投資ができるお金を持っている人が儲かっていくという……。

小川「持続可能ではありませんよね。それを解消するには、原子力燃料と化石燃料に正しく課税する政策が必要だと私は思っています。化石燃料に課税すると、電気代もガソリン代も上がりますが、その税収を使って太陽光で発電した電気をある程度の値段で買い取るよう、正しく政策実行すれば……」

持続可能になっていきますね。

小川「そのためには、化石燃料にちゃんと高い値段を払うという国民の側の理解と覚悟が求められます。それを説得する勇気が政治の側にあるか。こうした本当の問題から逃げずにやってきた政治が果たして今まで日本の歴史にあったのか。そうしたことにチャレンジする政治を何としても作りたいんですけど、力及ばず……もがいているという状況です」

※1処理水……「ALPS処理水」。メルトダウン(炉心溶融)事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所で発生した汚染水を「多核種除去設備(advanced liquid processing system、ALPS)」と呼ばれる除去設備等を使ってトリチウム以外の放射性物質が、安全に関する規制基準値を確実に下回るまで、浄化処理した水(トリチウムを除く告示濃度比総和1未満)。

※2政府は2021年4月13日、海洋放出する方針を決定した。

 

「明日の生活に困らない人が〝我慢してくれ〟と言っても伝わらない」(SUGIZO)

小川さんに17年間密着したドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を観ると、とにかく国や国民のことを本気で考え、行動していることがわかります。ですが、党内政治で出世できず、言いたいことを言わせてもらえない。さっき楽屋でTOSHI-LOWさんに「映画を観たけど、やっぱり総理大臣にはなれないよなぁ」と言われていましたが(笑)。そろそろTOSHI-LOWさんに出てきてもらって、話の核心に入っていこうと思います。

TOSHI-LOW「楽屋で聞いてたけど、笑いが少ない(笑)。小川ジュンジュンの話は、すごい説得力があったけど、(選挙区で敗れて)比例復活※3だもんね、と思うとやっぱり〝頼りねぇな、総理大臣になれねえな〟って思うよね。映画にも出てきたけど、希望の党へ行っちゃう、ブレッブレな時もあったし(笑)」

小川「情けないです(苦笑)」

TOSHI-LOW「立憲民主党は、原発についてはどういう意見なの?」

小川「やめるというのは明らかです」

TOSHI-LOW「いつ? 30年後とか言うんでしょ?」

小川「旧民主党時代は30年と言っていました。立憲民主党は〝もっと早く〟という意見で一致しています。ただ、難しいのは40年廃炉※4の問題です。それでいうと、この後ほとんどの原発は動かせないはずです。だから、再稼働を認めるか認めないかというのが分岐点になると思います」

SUGIZO「でも、この状況で政府は女川原発※5を再稼働させるという議論をしていますよね?」

小川「自民党は基本的に原発推進なので、今、原発で賄われる発電量は全体の数%ですが、これを2050年に20数%まで上げようとしています。となると、新しい原発を造る方向にならざるを得ません」

そんな中ですが、福島第一原発処理水の貯蔵のリミットが2022年の秋に来ます。今、東京電力の株式の約55%を所有している筆頭株主は〝国〟で、東電幹部のほとんどを経済産業省の元役人が占めている。僕たちが声を上げていかないと、再稼働も廃炉も処理水の問題も、閉ざされた中で決められてしまう可能性が高いですよね。

小川「その話でいうと、政権の器が小さいんだと僕は思います。みんな、世の中は都合のいいことばかりじゃないとわかっているのに、なぜ隠すの?と思いますよね。コロナで、ドイツ首相のメルケルさんやニュージーランド首相のアーダーンさんは、不都合なこともしっかり説明しています。知らぬ間に影で物事が決まっていく政治に、国民はもう辟易(へきえき)していると思うんです」

SUGIZO「(政治家の声が)伝わってこないんですよ。メディアを通して見ていても、発言する人がまず人の目を見ていない。結局、誰かが書いたものを見ている。それだけでもう伝わってこない」

小川「音楽も、おそらく単にメロディや詞だけじゃなくて、その奥にある何かが音楽を通して伝わっているわけでしょう?」

TOSHI-LOW「わかったようなこと言いやがって(笑)」

小川「間違っていますか?(苦笑)」

TOSHI-LOW「音楽は音楽で大変なんだよ(笑)」

小川「僕が言いたいのは、政治家の言葉も〝言葉面〟じゃなく、その奥に抱えている何かが言葉や表情、抑揚を通して伝わるわけです。だから、何も伝わらないということは、その〝何か〟がないんじゃないか、と」

TOSHI-LOW「そう思っちゃうよね」

小川「そんな政治家をコックピットに据えた日本は、この先いったいどこへ向かうのか。そこに対する不安や不確かさがこの国の一番の病巣だと思います。明確に〝どこに行くのか〟〝それはなぜなのか〟〝リスクもあるけれど、その先にどんな社会像を描いているのか〟ということをちゃんと持っている政府がこの国に誕生したら景色は変わると思うんです」

TOSHI-LOW「なんでジュンジュンは選挙区で受かんなかったのかな?(笑) こうして話を聞いてたら、一票入れようかなって思うのに」

なぜですかね? 本人を前に聞くのも酷な話ですが(苦笑)。

SUGIZO「いわゆる政治力が強い人、コネや環境を作るのに強い人が得をしていますよね。純粋に本気で生きている人や、本気で発信している人が、なかなか世の中を導く立場になれない。そういう意味では、TOSHI-LOW君は本当にすごいと思う。このまま武道館に立っている。ビッグになるために、何かやったわけじゃないじゃん。純粋なまま、ここまできていることに本当に感動します」

TOSHI-LOW「俺、褒められてる? もうお酒、飲んじゃおうかな(笑)」

SUGIZO「だから僕は政治家にも同じことが言いたい。純粋に言葉を発して純粋に真剣な人が党の上に行くべきだし、ましてや与党となるべきだし。そういう総理は、今まで生まれたことがないと思うので」

小川「そういう意味では、私が若干希望に思っているのは、『半沢直樹』が流行ったでしょう? それから『梨泰院クラス』という韓国ドラマもすごく流行りましたが、これはパク・セロイという無骨な男が成り上がる物語です。こうしたドラマで描かれる不正との闘いって、おそらくどんな業界にもあって、すべての人に降りかかっている課題じゃないですか。こうした作品が流行っている世の中の風潮に希望を感じました」

TOSHI-LOW「逆もあるんじゃない? もうフィクションの世界にしか、闘う人がいない。現実にはしがらみと悪党しかないから、ドラマの中だけにヒーローを求めて、少しすっとさせてもらうっていう。俺はそっちなんじゃないかって思うけど」

小川「『水戸黄門』みたいな。……でも、私はそうだと思わずに闘いたいです」

TOSHI-LOW「もちろん、最後に悪代官がやっつけられるところを見て気持ちいいわけだから、みんなの中にそういう気持ちはあるってことでもあるけど」

そういうリーダーをみんな待望しているのかもしれないですよね。

SUGIZO「(今のリーダーたちは)本当の痛みがわかってないと思う。明日の生活に困らない人が〝我慢してくれ〟って言っても伝わらないですよ」

小川「そうですよね。実際、国民にはコロナ禍なので不要不急の外出は我慢してくれと言いながら、飲み歩いている政治家が出てきてしまっています」

TOSHI-LOW「俺たちも、この後、銀座で打ち上げやろうよ(笑)」

この4人で銀座へ行って、飲みながらインスタライブをやったら明日、小川さんがどうなるんですかね?

小川「明日、私は辞職です(苦笑)」

一同「(笑)」

※3比例復活……衆院選では小選挙区と比例代表に重複して立候補することができる。小選挙区で落選しても、比例で当選できることを比例復活という。

※440年廃炉…‥‥2011年の福島第一原発事故を受け、2013年に定められた原発の運転期間を原則40年とするルール。ただし、1回に限り、20 年を超えない期間延長することができるとされている。

※5女川原発…東日本大震災の被災地である宮城県牡鹿郡女川町と石巻市にまたがる東北電力の原子力発電所。東日本大震災後、運転を停止していたが、2020年11月宮城県知事により再稼働に同意することが表明された。

 

「システムや構造ごと変えないと自分たちの声が届かない」(TOSHI-LOW)

震災から10年。次の10年をいい方向へ向かわせるには、僕は立場を超えて本音で語り合うところからしか始まらないと思っているんですが、そんな時にコロナで直接コミュニケーションが取れないという大変な11年目のスタートになっています。TOSHI-LOWさんは、ライブの打ち上げとかやっているんですか?

TOSHI-LOW「できないし、バンドだって、ろくに活動できてないよ。でもさ、正しいって漢字は〝一度止める〟って書くじゃん。物事によっては、ダメだとわかっているのに、何も変えずにそのままずっと続けちゃってることもあるでしょ。そういう意味では、ここで1回止めてしかるべきだと俺は思うけど」

大事なのは、ダメなところを一旦止めて、どうリスタートさせるかですよね?

TOSHI-LOW「結局さ、昭和を引きずっている原発もそうだし、政治もそうだよね。このシステムのまま、多少何かを変えても、結局首をすげ替えただけじゃん。だから、やっぱりシステムや構造ごと変えないと、自分たちの声は届かない。選挙にしても、今は1人だけが勝つ小選挙区制※6でしょ。俺が子供の時は中選挙区制※7で、親が候補者の中から3人くらい投票する人を選んでたのを見てたわけ。それがベストではないのかもしれないけど、もっといろんな声が拾われてた気はするよね」

小川「中選挙区制では、例えば1つの選挙区から3人とか5人選ぶわけです。1つの選挙区に同じ党が複数の候補者を立てるので、今みたいに〝自民党ならみんな勝てる〟じゃないから、党内でしのぎを削る。だからスケールの大きい方が多かったと言われています。今は、党首に尻尾を振って公認さえ得られれば、もう安泰だ、と。だから、ちょっとした問題行動を起こしたりするような小粒な人もたくさんいる。確かに、選挙制度の問題は大きいかもしれません」

選挙制度の問題でもありますが、僕はすごく日本的な問題も感じています。今、多様性ってよく言うけれど、政治家、政党にも多様性はあまりなくて、若い人から見れば〝与党だって野党だって、実際あまり変わらないじゃん〟と思っている人も多いと思いますし。特にこうしたコロナや震災の時は、思い切ったラディカルな案が出てきたり、思い切った行動が人々の関心を引いたりすると思うんですが、そうした動きも海外に比べて少ない気がします。
一方で、山本太郎さんが言っていたベーシックインカムも、かつては受け入れがたかったかもしれないけど、今のタイミングだと以前より現実味を帯びてきている。そういう意味では、何か今までの発想や、今までの資本主義とは違う新しいものをみんなで作っていけないのかな、と思うんです。

小川「僕もそこが大切だと思います。成長経済に依存していた構造から脱却して、ベーシックインカムも含めて、みんなの暮らしを支える政治に大きく切り替える。今回の出演者はみんなほぼ同世代ですけれど、バブルを知らないですよね。これは大きいと思うんです。僕はバブルを知っている世代の政治家に育ててもらったんですが、彼らと話していると〝ちょっと呑気だな〟と思うことがあります。僕が社会に出た1994年は既に就職氷河期で、僕は本格的な好景気を1度も経験したことがありません。だから、常に社会の将来をシビアに見ているし、その上でどうすればみんなが安心して暮らせるのかを考えています。そういう意味では、もう1つ2つ世代の歯車が回らないと、新しい価値観はインストールできないかもしれない。もう一踏ん張りなんですよ」

TOSHI-LOW「実際、少子化で経済的にもどんどん落ちていって、労働生産性はG7で最下位だし一人当たりGDPもG7で最下位争いでしょ※8。そんな中で、いい国ってどんな国なの?」

小川「GDPが大きいということはたくさん生産して、たくさん消費しているということですよね。それはある程度、豊かになるためには肯定されるべきことだと思います」

TOSHI-LOW「だから、それ以降は?」

小川「これから私たちが目指す方向性は、GDPは大きくはならないけれど、ある程度の選択の幅があり、最低限の暮らしが保障されて、公平で透明性があり、みんながそれなりに幸せに安心して暮らせる国だと思います」

TOSHI-LOW「つまり北欧の福祉国家、社会民主主義みたいなこと?」

小川「それが最低限ですよね。徹底的な自由競争市場原理に社会を落とし込まず、最低限の社会保障をみんなで支えるために高い税金を払う」

SUGIZO「その代わり、教育と医療は無償でっていう?」

小川「完全に無償で、年金もあるし、失業しても大丈夫という、ものすごく安心して暮らせる社会です。そうなると、将来に不安がないから、みんな貯金しないのでお金の巡りもいいんです。日本は逆ですよね。みんな不安でしょうがないから、少しでも余るお金があったら貯めておく」

SUGIZO「そうなりますよね」

小川「結局、いつもこの話になりますが、そうした国の国民は〝自分たちで選んだ政治家は、絶対に悪いことをしない〟〝税金は高いけれど、自分たちのためにちゃんと使ってくれている〟と言うんです。日本は逆でしょう? 政治家が汚職しないなんて信じられますか?という世界ですよね。でも、結局その政治家を選んでいるのは国民です。ですから、本当に一朝一夕にはいかないですが、粘り強く変えなきゃいけないんです」

※6小選挙区制……1つの選挙区ごとに1人のみを選出する選挙制度。

※7中選挙区制……かつて衆議院選挙において用いられていた、1つの選挙区から複数人(おおむね3人から5人)を選出する選挙制度。

※8出典……労働生産性-2019年OECD統計データより/一人当たりGDP-2020年IMF統計データより

 

 

 

「新しい政治を生むのは、新しい有権者です」(小川)

目指すべき社会みたいなものが、少しずつ見えてきたような気がします。GDPの話で言うと、もうたくさんものを作って消費する必要はないのかもしれない。その結果、うつ病になったりしているわけですから。それが本当に幸せなのか。
だから、たくさん働いてたくさん作らなくてもいいけれど、例えば水やエネルギーや公園などのようなみんなで共有するものは、企業じゃなくみんな作っていくような方法を考えて、〝利益のために〟じゃなくて〝地球のために〟〝未来のために〟残していくというアクションをしないといけないのでは?

小川「まさにそう思います。公園や水や空気などの豊かさやきれいさはGDPで測れない。ところが、例えば心を病んだ人が増えて、精神科に通う人が増えると、GDPは増えるんですよ。また、治安が悪くなって警備員をたくさん雇わなければ安心して暮らせないとなるとGDPは増えます。つまり、GDPでは測れないものをもっと大事にしながら、透明性が高く、公平に生きられる、不安のない社会を目指すべきだと思うんです」

TOSHI-LOWさん、そのためには僕らはどこから始めていけばいいのか、っていうのがなかなか難しいですよね。

TOSHI-LOW「そうだね。俺だって、ポンタカードのポイントすら使わないもん。不安だから」

確かに貯め込みがちです(笑)。

TOSHI-LOW「うん。まずはそれを使うところからかな(笑)。でも、生き方も価値観も少し変わってきているのは感じるよね。例えば俺たちはフェスをやってるでしょ。そこでなんでお客さんがゴミのポイ捨てをしないかっていったら、やるとフェス自体が成り立たなくなるから。あと、当たり前だけど、自分の部屋だってきれいな方が気持ちいいじゃん。で、友達の家へ行ってもわざわざ汚さないでしょ? そういう感覚というか、社会で共有するものをみんなできれいにするみたいな感覚を持ってる若い子たちは、たくさん出てきてると思う。シェアハウスとかシェアカーもそうじゃん。所有じゃない、結局そっちのほうが得じゃんっていうさ。奪い合ったり、自分が好き勝手やったりするんじゃない方がいいっていう若い子たちが今日みたいな話を聞いて、ジュンジュンを持ち上げてくれたらいいよね」

SUGIZOさんも、よく「利己じゃなくて利他」ということをおっしゃっていますよね。

SUGIZO「そうですね。でも、若い人たちを見ていると、二極化していると思う。無責任なヤツらは無責任。好き勝手やってるヤツもいるけど、かたやボランティアや環境のイベントに行くと、必死になっている子たちも少なくない。未来を見て、世に貢献したいという夢を持っている子たちが多勢います。政治や社会を作っていくことに関して自分たちの世代がやらないと、と思っている彼らのポテンシャルやアティテュードを引き上げることが、僕たちの世代の仕事だと思う。それは政治の立場でも、音楽という立場でも、今、我々が次の世代を鼓舞できるところにいると思うので」

そうですよね。最後に、観客の方からの「民間企業や一般人は生活や経済活動をアップデートさせているけれど、メディアで観る限り、国会議事堂はアップデートされていない。何が問題なのか、それをするためには国民に何をしてもらいたいのか」という質問で締めたいと思います。

小川「ご質問をありがとうございます。1つ目の質問に関しては、〝お年寄りが多い〟というのはひとつ問題ですよね。議事堂も含めて、昭和のままなんだと思います。そこは変えないといけない。そこで、有権者に何をお願いしたいか、というと、本来、政治は政治家が変えなきゃいけないんです。でも、新しい政治家が増えないと政治は変わらない。新しい政治を生むのは、新しい有権者です。
僕はこのコロナで〝こんなに日本は後進国になったんだ〟と愕然としました。ワクチン開発はできないし、検査も広がらない、医療も整えられない。この現実を見て、〝このまま政治を放置しておくと、ただごとでは済まない〟と多くの人に気づいてもらいたいんです。そこで、何が何でもお願いしたいのは、選挙に行くことです。今、有権者の半分しか選挙に行っていません。その更に半分、全体の4分の1の投票で国会の7~8割の政治家が決まっています。だから、たとえ選びたい人がいようといまいと、支持政党があろうがなかろうが、とにかく選挙に行ってほしい。そこから変わっていくしかないんです。新しい有権者が新しい政治家を生み、新しい政治家が新しい政治を生み、その恩恵を有権者が受ける、というサイクルを、なんとか作りたいんです。そのための最初の一歩は、選挙に行くことです。それだけ、お願いしたいです」

ある意味、小川さんの映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』って逆に言えば、なぜ僕たちはこういう人を総理大臣にできないのかっていう問いでもあると思います。

TOSHI-LOW「こういう機会を通して国会議員と話ができたことは、俺にとってもすごく政治を身近に感じられるいい機会になったと思う。その上で、やっぱり政党うんぬんではなくて、〝人〟なんだと思うよね。東電だって、事故は起こしたけど敵じゃない。俺の友達の弟が東電の社員でさ、〝TOSHI-LOWさん、見てください〟って〝反核〟って書いたTシャツ着て見せてくるようなヤツもいるんだよ。だから何するのも、その人の志や本質を見ることが大事だと思う。政治も別に政治家が悪いわけではない。誰かのせいにするんじゃなくて、自分たちが一人一人を見極める目をもたないといけないよね」

SUGIZO「全く同感ですね。結局は人が大切だと思う。政治でも、音楽でも、人の心を持った本気の人が、自分の言葉で言うと、〝自分の幸せだけを考えるんじゃなく、周りのみんなと一緒に幸せになりたい〟〝地球や未来を良きものにしたい〟という利他的な生き方ができる人が各シーンを作っていける……そんな社会をこの世代で実現させたいですね」

 

『君ニ問フ』TALK&LIVE vol.1-3.11 から10年。福島第一原発の今後とエネルギー政策を問う- ”SUGI-LOW” (SUGIZO, TOSHI-LOW) イベント終了後コメント

左からTOSHI-LOW、SUGIZO、小川淳也、ジョー横溝

SUGIZO

作曲家、ギタリスト、ヴァイオリニスト、音楽プロデューサー。 日本を代表するロックバンドLUNA SEA、X JAPANのメンバーとして世界規模で活動。同時にソロアーティストとして独自のエレクトロニックミュージックを追求、更に映画・舞台のサウンドトラックを数多く手がける。昨年、サイケデリック・ジャムバンド SHAGを12年ぶりに再始動。音楽と並行しながら平和活動、人権・難民支援活動、再生可能エネルギー・環境活動、被災地ボランティア活動を積極的に展開。アクティヴィストとして知られる。
http://sugizo.com

TOSHI-LOW

1974年、茨城県生まれ。BRAHMANのボーカル、OAU、the LOW-ATUSのギターボーカルとして活動する。2011年3月11日の東日本大震災以降、その迅速な決断と行動によって、多くのミュージシャンやバンドへ影響を与え、各地で起こる災害への支援も迅速かつ積極的に行い、現在もヒューマニズムあふれる支援活動を継続している。
http://tc-tc.com

小川淳也

1971年香川県生まれ。日本の政治家。元自治・総務官僚。立憲民主党所属の衆議院議員(5期)。 総務大臣政務官 (鳩山由紀夫内閣・菅直人内閣)、旧立憲民主党代表特別補佐などを歴任。2020年には小川氏を題材にした映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』(監督:大島新)が上映された。http://www.junbo.org/


テキスト:『君二問フ』編集部

2021年2月24日(水)開催のイベント「『君ニ問フ』TALK&LIVE vol.1 -3.11 から10年。福島第一原発の今後とエネルギー政策を問う-」(リアル&オンライン配信)のトークパートの一部に編集を加え掲載しました。

イベント関連記事:ジョー横溝福島原発ルポ2021(2021/3/17東スポnote掲載)
https://note.tokyo-sports.co.jp/n/n89be058ed4e7