アーティストたちの平和への祈り――ウクライナ人道支援ライブ『PLAY FOR PEACE Vol.1』ダイジェストレポート
PLAY FOR PEACE レポート(2)
ロシア軍によるウクライナ侵攻から1カ月が経とうとしていた3月23日。
10組を超えるアーティストがウクライナ人道支援のために下北沢・Flowers LOFTに集い、配信ライブ『PLAY FOR PEACE vol.1』が開催された。
平和への想いが込められた演奏とトークの模様を写真で振り返る。
※配信ライブの模様は2022年6月中旬までYouTubeにて全編公開中
https://www.youtube.com/watch?v=PMXm289RwxE
※【MESSAGE】はイベント後に登場者から頂いたコメントを掲載しています。
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- 03 Jun 2022
演奏① 殴打!(ダースレイダー&オータコージ)feat. DJオショウ
最初の演奏、ダースレイダー率いる殴打!(ダースレイダー&オータコージ)feat. DJオショウがスタートしたのは18時少し過ぎ。ちょうど、ウクライナのゼレンスキー大統領が日本の国会でリモート演説を始めた時間と重なった。
フリースタイルラップの名手でもあるダースレイダーは、遠い国での軍事侵攻で市民の当たり前の生活が犠牲になっている現状と、自分たちの日常生活を重ねてラップした。
【SETLIST】
1.即興
2.Dreamer
3.ラッパーの葬式
【MESSAGE】
例えば2月中旬、ウクライナのミュージシャンは当たり前のように来月のライブを予定して周りに告知をしていただろう。子供たちは今度の週末に遊びに行くのを楽しみにしていただろう。僕らが出来ることの一つは想像力を働かせること。その一つ一つのかけらを集めていく。
ダースレイダー
トーク① マリア・ゴロミドワ
ステージ転換の間にはトークブースで平和のためのトークセッションが行われた。
最初に登場したのは、ロシア人カメラマンのマリア・ゴロミドワ。祖国ロシアだけではなく、ウクライナにも多数の友人がいるというマリアの言葉は、この侵攻の悲しさを表現するのに十分なものだった。また、彼女が語った「愛と音楽でこの世界が満ちてほしい」というメッセージは普遍的で、世界中の人にシェアしたい言葉だ。
【MESSAGE】
今起こっているのは、アルカイック、古風な考え方とモダーン、人道的な考え方の闘争だと思います。アルカイックな世界は戦争で過去を維持しようとしてる。モダーンの世界は思考の自由、協力、多様性、アート、人を大切にする。
『PLAY FOR PEACE』 は明らかにモダーンの人道的な発想から生まれてるプロジェクトだと思います。ロシア人の一人として参加できて本当に嬉しいです。ウクライナで起きてる悲劇に対して責任を感じていて、恥ずかしさで辛くて、何かしてあげたくて、でも声上げるのもなかなか勇気がなくて、とても困っていました。言葉というのは本当に大切ですね。「戦争に反対です。ウクライナ人に申し訳ないです。平和を祈っています」というずっと心に溜まっていた言葉を伝えたかったのです。
この機会をいただいてとても感謝しています。
マリア・ゴロミドア
演奏② 荒井岳史(the band apart)
2組目の演奏は 、the band apartのフロントマン・荒井岳史の弾き語り。レコーディングを抜け出し、荒井はこのイベントに駆けつけてくれた。1曲目に披露した曲は2011年3月11日の東日本大震災後に荒井が書いたものだ。MCでは「当たり前の日常が急になくなった時、ミュージシャンとして何ができるのか?自分がちっぽけな存在と思えば思うほど、立ち止まるのではなく、小さくてもできることがあるんです」と言葉を紡ぎ、素晴らしい演奏を聴かせてくれた。
【SETLIST】
1.次の朝
2.夜の向こうへ(the band apart)
3.家族の風景(ハナレグミ)
4.流れ星
5.希望
【MESSAGE】
ミュージシャンとして希望を紡いでいく立場であり続けたいです。
PLAY FOR PEACEに参加できて光栄です。
少しずつの力が合わさって大きな希望になりますよう。
荒井岳史
トーク② ダースレイダー
素晴らしいラップを披露してくれたダースレイダーがトークにも参加。ステージで見せたフリースタイルのラップのテーマについて語った後に、ダースレイダーらしい視点で音楽の役割についても語ってくれた。「こういう時に音楽に何ができるの?と言ってくる人がいるけど、逆に、私たちは音楽を通して世界から何を受け取っているかを考えてほしい。そうしたら、音楽ができない状況を人為的に作り出す戦争を止めようと思うはず」という発言が心に響いた。
演奏③ JESSE(RIZE / The BONEZ )
「EVERYBODY、誰か悩んでいる人のために俺が何をできるか?」と語り、アコースティックギター1本で語るように歌い始めたJESSE。歌詞の一言一言が心に刺さる。途中のMCではロシア人の父親を持つ自身のスタッフについても語ってくれた。
「そいつのお父さんは、昔から俺らのライブに来てハグしてくれてた。少なくともそいつのお父さんは悪くない。そのお父さんが育ったロシアの保育園も小学校も……悪くない。もう万人レベルで悪くない。俺には悪いヤツを指さすことはできない。俺はそんなに偉くないし。EVERYBODY IS WELCOME。これはそういうイベントだよ」というメッセージとともに、歌を画面の向こうに飛ばし続けた。
【SETLIST】
1.手紙
2.Welcome
3.願い人
4.Start line
【MESSAGE】
魂込めました PLAY FOR PEACE
JESSE(RIZE / The BONEZ )
トーク③ JESSE(RIZE / The BONEZ )
演奏直後にトークブースに駆けつけてくれたJESSE。「世界中にある、あらゆる問題に対して音楽だったらPEACEにいける。LOVE&PEACEって言葉があるけど、俺はひそかにPEACE&LOVEじゃないかと思ってる。LOVEは時にはジェラシーを生む。けどPEACEがあれば自然にLOVEが生まれるから」という言葉は演奏に続いて、JESSEのPEACE=平和への想いに触れることができた。
演奏④ ATSUSHI & ナターシャ・グジー
舞踏家のATSUSHIとウクライナ出身のミュージシャン、ナターシャ・グジーによるスペシャルなコラボレーション。ナターシャはバンドゥーラというウクライナの民族楽器を弾きながら歌唱してくれた。1曲目はさだまさしの『防人の詩』(さきもりのうた)のカバー。2曲目からATSUSHIが入り、歌に合わせて即興で舞う。どこまでも澄んだバンドゥーラの音色とナターシャの歌声、そして自由なATSUSHIの舞いは平和への希望に満ちあふれていた。
【SETLIST】
1.防人の詩(さだまさし)
2.鳥の歌
3.我がキエフ
【MESSAGE】
友達のなっちゃん(ナターシャ・グジー)と一緒に参加できた事を、嬉しく思います。
混沌とした今の時代に、自分達の生きる術である踊りと音楽が、心安らぎ生きる糧になってくれたら、嬉しいです。
ありがとう
Дякую
ATSUSHI
トーク④ 雨宮処凛
貧困問題など弱者の視点に立ち活動を続ける作家の雨宮処凛。〝障害者と戦争〟という視点からトークを展開してくれた。「結局、戦争って障害者をたくさん生み出すんです。身体の障害もですけれど、精神的な障害もです」という指摘は、同じく雨宮が語っていた「戦争は弱者が犠牲になり、その弱者をさらに生み出す」とともに私たちは胸に刻んでおくべきだと思う。
演奏⑤ タブゾンビ
SOIL & “PIMP” SESSIONSのメンバーとして活躍するトランぺッターのタブゾンビ。圧倒的な演奏力に裏打ちされた即興プレイで視聴者を魅了した。MCも歌もなかったが、そのトランペットの音色は雄弁に戦争の恐ろしさと平和への想いを物語っていた。
【SETLIST】
即興演奏(テーマ「戦争と平和」)
【MESSAGE】
このイベントによって集まったお金が戦争によって被害に遭われた方々や必要とされてる方々に届けばいいなと思ってます。
タブゾンビ
トーク⑤ ATSUSHI & ナターシャ・グジー
ナターシャは幼い頃にチェルノブイリ原発事故を経験している。彼女が「事故は36年前ですが、決して終わった話ではないんです」と後に、「もちろんチェルノブイリのことを伝えるのも、自分のライフワークだと思っています。そして今ウクライナで苦しんでいるたくさんの方々にも、それを乗り越えられる何か希望を感じていただけるように、音楽の力、芸術の力をみなさんがきっと必要としていると信じています」と語ると、3.11の被災地支援を続けているATUSHIは「悲しい思いをしているんだったら〝大丈夫?〟って、手を差し伸べられるような関係でみんながいられたら……、みんなが思いやりを持って暮らせていけたらいいなと思っています」と続けた。
演奏⑥ TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)
この日、友人の送別会を抜けてイベントに駆けつけてくれたTOSHI-LOW。演奏の前に「友人の送別会をこんな配信に邪魔されるなんてアホらしい。だって俺は友達とベロベロに酔っ払いたかった。俺から飲み会を奪うなんて戦争反対。平和がいい。俺のための平和主義」とTOSHI-LOWらしいMCをぶち込み、弾き語りを始めた。その演奏と言葉は、フロアで観ていた清春が「目頭が熱くなった」と後に告白するほどだった。
【SETLIST】
1.私たちの望むものは(岡林信康)
2.ダディ・ダーリン(G-FREAK FACTORY)
3.君がいれば(えび)
トーク⑤ 雨宮処凛&TOSHI-LOW
素晴らしい演奏を披露してくれたTOSHI-LOWと、雨宮処凛のセッショントーク。ミュージシャンが素晴らしいのは、こうしたイベントでもユーモアを忘れないことだ。このセッショントークでは雨宮処凛とTOSHI-LOWの掛け合いにそのユーモアを堪能できるのはもちろん、強いメッセージも受け取ることができる。1曲目に演奏した岡林信康のカバー『私たちの望むものは』について、TOSHI-LOWは「戦争を放棄しているこの国の反戦歌。それに誇りを持って歌っている」と力強く語った。
演奏⑥ 佐藤タイジ&清春
意外な組み合わせのように思われるが、実は清春の1stソロアルバムに佐藤タイジは参加しているし、去年リリースした清春のシングル『ガイア』にもタイジはアレンジャーとギターで参加している。多忙な二人は事前のリハーサルはなく、会場で軽く音を合わせるだけで本番のステージへ。そして……見事なパフォーマンスを披露し、出演者たちからも大きな拍手が送られた。
【SETLIST】
1.傘がない(井上陽水)
2.ガイア
【MESSAGE】
いまミュージシャンに何ができるのかをミュージシャン達が自ら問い、演奏するというシンプルな行為が集まってた一日でした。参加して良かった。本当はもっとこのようなイベントが日本でも大々的に開催されるべきなんだと思います。
清春
演奏⑦ 佐藤タイジ
『PLAY FOR PEACE』の共同発起人でもある佐藤タイジ。東日本大震災後に再生可能エネルギーによる音楽フェス『THE SOLAR BUDOKAN』を立ち上げた佐藤タイジはウクライナ侵攻に際しても「困っている人がいるのならば助けるのは当然」と直ぐに共同発起人として『PLAY FOR PEACE』を支えた。ライブでは、最後の曲『ありたっけの愛』の中で「我々が想像すれば、絶対に戦争はなくなるのです」とシャウトし演奏を締めくくった。
【SETLIST】
1.Purple Rain(Prince)
2.ありったけの愛
トーク⑥ 佐藤タイジ、清春、TOSHI-LOW
緊張感のある演奏の後、一転して3人はリラックスムードでPEACEFULなトークをしてくれた。
思えば音楽のジャンルとしてはかなり違う3人が揃ってこうして話すこと自体が平和の象徴のようにさえ思われる。
トークの最後、TOSHI-LOWが清春にこの戦争についてどう考えているのかを尋ねた。
「僕らにできることは少ないけれど、それでも僕らは僕らで音楽を通じて何ができるかをちゃんと考えていて。僕なんか今日の出演者の中でもパッと見、違う部族だけど、その部族の中でもちゃんとやっている人はいるんです。亡くなった人の姿、子どもたちが倒れている姿、避難で国境を越えるのに何時間も待つ姿、孫に会うために何十キロも歩いてきた老婆の姿……観ていて胸が痛くなります。声をかけてもらって、歌うことで一つの力になれたらと思ってここに来ました」と答える清春と、それを笑顔でみつめる佐藤タイジとTOSHI-LOW。とても素敵な画だった。
演奏⑧ 片平里菜
福島でのイベント出演後に駆け付けてくれた片平里菜。最近の片平里菜がジョーン・バエズに見えるのは1曲目に演奏した曲が『風に吹かれて』だったからだけではないと思う。MCでは「できることは限られていてすごく無力に感じるけど、その声が無力だとしても、戦争は早く終わってほしいし、その声は上げ続けたいと思います」と力強く語った片平。そして、その歌声はどこまでも優しく透明だ。
【SETLIST】
1.風に吹かれて(RCサクセション)
2.予兆
3.青空(ザ・ブルーハーツ)
【MESSAGE】
何が本当の情報なのか何が正しいのかわたしにはまだわかりません……。でも戦争で命が奪われていることは確かで、自分にできることはなんなのか考えます。『PLAY FOR PEACE』での時間を過ごして、平和を祈ること、平和のために話し合うことをずっと積み重ねていきたいと思いました。平和になるまで。
片平里菜
トーク⑦ 津田大介
ロシアがウクライナに侵攻して以来、自身のネット配信番組『ポリタスTV』で連日ウクライナ侵攻についての詳細をどこのメディアより長い時間をかけて詳しく報道している津田大介。この日のトークでも最新の情報をわかりやすく視聴者に語ってくれた。また3月5日に新宿で開催された反戦街宣『No War 0305 Presented by 全感覚祭』にも参加した津田は、こうしたアクションの意味について「支援をデモや寄付などで可視化することに意味がある。淡々と、声を上げたり、寄付をすることをやればいい」と語ってくれた。
演奏⑨ Yoshiyuki & Megumi(真城めぐみ&八橋義幸)
自身のライブの後に駆けつけてくれた真城めぐみは、ギタリスト・八橋義幸とともにステージにあがった。二人の安定の演奏は観ているものに安らぎを与えてくれる。音楽はそのもの自体が平和だと再認識させてくれる素晴らしい演奏だった。
【SETLIST】
1.Stay in the Light
2.Sparkles
3.Lea Harvey
4.Change
【MESSAGE】
ご支援くださった皆さん
ありがとうございます。
あの日は平和への祈りを込めて演奏をしました。
同じ気持ちで集まったさまざまな表現者達ですがバックステージは穏やかでした。
まだ戦争は続いている。
皆さんからいただいたお金が役に立ちますように。
そして引き続きご支援をよろしくお願いします。
真城めぐみ
トーク⑧ SUGIZO
共同発起人・SUGIZOによるVTRメッセージ。
スケジュールの都合で会場には来られなかったSUGIZOだが、平和への熱い想いをVTRに託し寄せてくれた。
演奏⑩ 曽我部恵一
最後の曽我部恵一の演奏が始まった時にはすでに0時を過ぎていた。
ノーMCで歌い出した曽我部。言葉の一つ一つが心に届く、想いに満ちた歌だった。最後に演奏した曲以外は直接的な反戦や平和を歌う曲ではないが、日常を歌った曽我部の歌に多くのコメントが寄せられたし、演奏を観ていた佐藤タイジは満面の笑みで「曽我部くんの演奏がとにかく素晴らしくてうれしくなった」と語っていた。
最後の曲『永い夜』での〝自由はたぶん手に入らないだろう ぼくは歌う ぼくは歌うぜ〟の全身全霊の歌唱は今でも脳裏に焼き付いている。
【SETLIST】
1.bluest blues
2.天使
3.おとなになんかならないで
4.コンビニのコーヒー
5.春の嵐
6.永い夜
【MESSAGE】
この夜もぼくはいつもどおり思い切り歌った。
無観客配信ライブをやっていると、時折、インターネットの向こうのだれかのことを想像することがある。
この夜、ぼくはなぜか、絶対に繋がっているはずのないウクライナの人々が聴いているような気がする瞬間があった。
今のウクライナに、音楽に耳をかたむける余裕がある人などほぼいないはずだ。
だとすればぼくの錯覚は大きな思い上がりだろう。
そもそもぼくはだれになにを伝えたいのか。
深い闇のような問いを振り払うように歌うしかないのだろうか。
曽我部恵一
演奏⑪ PLAY FOR PEACEセッション (曽我部恵一、真城めぐみ、TOSHI-LOW、佐藤タイジ)
会場に残ってくれていたミュージシャンたちに共同発起人の佐藤タイジが声をかけて急遽実現したスペシャルセッション。
送別会には戻らずセッションにも参加してくれたTOSHI-LOWはユーモラスなアクションで『PLAY FOR PEACE vol.1』の最後に笑顔をもたらしてくれた。
【SETLIST】
ヘイ・ジュード(ザ・ビートルズ)
■『PLAY FOR PEACE vol.1』の模様は2022年6月中旬までYouTubeにて全編公開中
https://www.youtube.com/watch?v=PMXm289RwxE
*プレイリスト
演奏された曲の中から各アーティストから1曲をリストにしました。
※【SETLIST】( )内は原曲者名を表示しています。