音楽に対する動機が純粋な人は変わらない

KenKenをゲストに迎えたソロツアー「My Hero Tour」は、4月7日の緊急事態宣言のギリギリまでライブをやられていたんですよね。

「3月いっぱいは四国をまわってたね」

それ以降、無観客での配信ライブに切り替えたと思うんですが、まだ今ほど主流ではなかった時期ですよね。

『LIVE FOR NIPPON』(※1)は、もともとリアルイベントと同時に配信もやっていたから、配信自体に抵抗なくスルっといけたのかもね。ライブハウスからの配信にこだわったのは、少しでもライブハウスにお金を落としたかったから。でも、ゲストがリモートだと音に時差があって、さすがにやりにくかったけど(笑)」

それでもセッションを成り立たせるって、すごいギターテクニックですよね。無観客ということについてはどうでした?

「無観客でKenKenと配信をやった時も、結局プレイは同じなわけ。実際やってみて、俺はステージ上で完結しているところが多いタイプなんやなって思った。『目の前に観客がいないとできない』って声も聞いたりするけど、俺は関係ないわって。『Love On Music』(※2)の収録でも、ラジオ局のスタジオでセッションしてるでしょ。だから、観客がいない中で演奏することに慣れてたのかもしれんけど。あとは俺の場合、オーディエンスにかっこよく見られたいというよりも、自分が納得できる演奏をしたいっていう欲求のほうが上にあるのよ。シアターブルック(※3)もそういう連中が集まってるし。目の前にお客さんがいるか、いないかって、実は音楽自体にしてみればあんまり関係ないことなんよね。ライブ後にちょっとさみしいなっていうのはあるけど。たぶん音楽に対する動機が純粋な人は変わらないのよ。

最近、ドイツのサッカーリーグの無観客試合を見たらすげぇ面白かったの、選手たちがガチでやっているのが伝わってきて。むしろ観客がいないほうが余計な要素がなくて、選手のモチベーションや技術がより浮き彫りになって、うまいほうが勝つ、もしくはモチベーションの高いほうが勝つっていうガチ感が伝わったのね。音楽も同じやん。技術とモチベーションが高い人は、配信だろうと何だろうと面白いんだよ」

※1 『明日の日本を考えるLIVE FOR NIPPON』……東日本大震災の直後に佐藤タイジが開始したライブイベント。月に1度、ミュージシャンをゲストに迎えライブハウスでトーク&ライブを行っている。

※2 『Love On Music』……InterFM897で毎週水・土曜日(21:00〜22:00)に放送しているラジオ番組。ゲストにミュージシャンを迎え、佐藤タイジとスタジオセッションライブを行っている。2015年4月放送開始。20年末で放送300回を迎える。

※3 シアターブルック……1986年に佐藤タイジ(Vo,Gt)が結成したバンド。95年にメジャーデビュー。 95年に中條卓(Ba)、96年にエマーソン北村(Key)、97年に沼澤尚(Dr)が参加。

 

佐藤タイジ My Hero Tour 「My Hero」 GUEST/ KenKen<大阪>

家におってもパーティーはできる

先日、2020年の「THE SOLAR BUDOKAN」(※4)は4DAYSで、無観客生配信+有観客事前収録のハイブリッドで開催すると発表されました。今回、中止という選択をしなかった理由は?

「止めても誰も得しいへんやん。例えば、フェスの役割って町おこしとか、地方の経済活性化みたいなところもあるわけやんか。そういう意味でも、今後のためにも続けていくべきだと思ってるから。

あとは、おそらくコロナの状況はこの後もっとひどくなるだろうから、それを予想して今できることはやっておかないと、この先何もできなくなるって考え方なのね。世界を巻き込んだ100年に1度のウイルスは、より危険度を増してくる可能性があるわけやんか。そうなれば、大規模イベントなんて、今以上にできなくなるかもしれない。だからこそ、どんなに規模を縮小してもやらねばならないと思ってるのよ。やめるのは簡単だけど、次やれんくなるよ。仮に今年よりも来年のほうが感染者が多かったら、『去年やってへんのに今年やんのか? BY自粛警察』みたいに絶対になるのよ。もちろん中止を決めたフェスも英断だと思うけど、俺は今止めたらあかんって思ってる」

開催しなければ、この状況でイベントをやるノウハウも一向に溜まっていかないですもんね。

「そうなんよね。オンラインでは『そんなこともできんの?』ってことが、まだまだたくさんあるはずやん。海外のアーティストにリモートで出演してもらうのも、東京のライブハウスからリモートでやるのも、手間的には一緒なわけだから。思わぬことをやれるはずなのよ。それくらいテクノロジーは進化しているわけやん。それを最大限に生かして面白いことをやりましょう、ってことよね。家におってもパーティーはできるって実証していかないと。これよりひどい世の中になった時に心のソーシャルディスタンスまで広がってしまったら、人類はここまで何をやってきたん?って言われると思うよ。テクノロジーを発達させてきたのは、金儲けのためだけか?ってね。

それを子どもたちは、ものすごい冷静に見てるわけ。だから、今やれることをMAXまでやって、将来を担う子どもたちに『タイジ、イエーイ!』って言われるようなことを俺はやりたいんだよね。

今年の『THE SOLAR BUDOKAN』はセネガルと(イギリスの)ウェールズを繋いで配信をやろうって話が進んでいるし、あとは絶景といわれるような面白い場所からも配信したいなって思ってる。俺、ツアーで日本中あちこちへ行ってるやん。各地にすげぇきれいな場所とかがあるわけ」

コロナが収まった後に、観た人がその場所に訪れてくれたらいいですよね。

「なんとなくそういうこともイメージしていて。システム自体でも、フェスの面白さをバーチャルで体験できるようなやり方もあるんじゃないかなって」

VRとか、いろんな技術も進んでいますからね。

「それをMAXまで広げるいいタイミングなのでは?って思うよね。MAXまで広げてみたら、思いもよらん副産物が出てくるもんやん。前に進まないと副産物も生まれないからね。だからって、イケイケ、ゴリゴリでやってもあかんから。ちゃんと周りの人と、特に地元の人とはちゃんと話をしてやってかなあかんって思う。札束でひっぱたくようなやり方を我々はやってはあかんなって思ってる」

※5 『THE SOLAR BUDOKAN』……福島第一原発事故を経て、佐藤タイジがオーガナイザーとなり太陽光で行うロックフェスを掲げ、2012年12月に日本武道館にて初開催されたイベント。翌年からは岐阜県中津川市で開催している。http://solarbudokan.com/2020/

 

2019.9.28 シアターブルック「中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2019」

人生をコロナに左右されたくない

コロナ禍でタイジさんが特に印象残っている景色や言葉はありますか?

「2人の子どもを連れてスーパーに行ったら、2歳の下の子が『あれがほしい~』って泣き出しちゃったのね。そんで、マスクを自分で取っちゃったのよ。それを見たおばちゃんが『ばい菌!?』みたいな感じで、あからさまに嫌な態度をしてきたんよね。もう世知辛いというかさ、忘れられないよね。もしコロナじゃなかったら、泣いてる子がいたら『どうしたの?』ってなるわけやん、本来人間は。

世界に恐怖心が蔓延しているんやなって。この恐怖心が、人間の行動を妨げるわけやんか。震災の時も、原発事故の時も、いつもそうやん。じゃあ、それは何に対する恐怖心かっていったら、死に対する恐怖なんだろうね。その恐怖の根源を考えると、死ってものを知らないからでしょ。でも、ここまで情報が溢れている社会の中で、死がネガティブなものに俺は思えなくなってるんよ。ダライ・ラマが言う輪廻転生とか、宗教的な死の概念とかを知ったりするうちに、変わっていったよね。死に対して、俺はたぶん恐怖心よりも探究心のほうが強いタイプなんよね。痛いのは嫌やけど(笑)」

(笑)。

「だから、あえて強く言うけど、コロナにビビるっていう感覚がイマイチわからない部分もある。コロナにビビって自分の人生をつまらなく終わらせてしまうようなことがあるなら、それはもったいないって思うんよね。せっかくこの時代に生まれて、できることがたくさんあるのに、何もやらずに家に引きこもって、咳をしている人を罪人のように扱う人生はおすすめしないよね。

人間は、絶対にみんな死ぬんよ。だからこそ、美しいわけやんか。だからこそ、意味がある。今年の6月に俺の親父が死んだんだけど、完全に自分の人生をコントロールしきっていたように見えたのね。俺の手を握って、孫のランドセル姿の写真を見て『楽しかったなぁ』って言い遺してシュッと逝ったの。死の2日前にアルバムをリリースしたデヴィッド・ボウイと似てるところがあるなって思ってね。要するに、自分の最期をプロデュースしたんだと思う。それは、もちろんできる人とできない人がいるだろうけど、親父にできたってことは俺にもできるって思うんよね。だから、自分の人生をどう終わらせるかっていうのが、俺のテーマになってる。そう考えると、俺は人生をコロナに左右されたくないなって」

では、コロナ禍での状況でタイジさんが特に問題視していることって何ですか?

「うちの子を見てると、公立の学校は私立に比べてリモート授業がぜんぜん導入できてないのよ。この後、第2波、第3波が来ると考えると、今のうちに整備しておかないとまずいんじゃないの?って思うよね。どんだけ貧乏人の子でも、どんだけ金持ちの子でも、教育は平等に受けられるべきやん。金を持ってる人だけがいい教育を受けられるっていうのは、絶対に間違ってる。

日本って世襲制が強いじゃない? それって情報が共有されにくいっていうことだと思うのよ。『社会的流動性が低い』って言い方をする人がいたけど、その通りだと思う。うちは親父が新聞記者だったから本当は俺に記者になってほしかったんだろうけど、音楽の道にズバっと来ちゃったわけ。でも、だからこそ『THE SOLAR BUDOKAN』の発想にいけた部分があると思うんだよね。ジャーナリストに対して、シンパシーを感じているところが俺にはあるし。そういうことが、社会的流動性を高めることに繋がると思うのね。子どもたちがなりたいものになれるって、すごい大事やんか。親父と同じ職業をしなくちゃいけない社会は、選択肢の狭い社会ってことやんか。教育の機会を広く持たせることで、そこは絶対に変えていけると思うのね。俺はこれを機会に、教育の見直しは大きくやってほしいと思う」

コロナ禍の教育についての政府の議論を聞いていると、いろいろ心配になりますよね。

「コロナの封じ込めだって、台湾ではすごく成功してるやん。あれを見ていて、市民と政権のその信頼関係が大事なんやなって思ったのね。この国にはないよね。信頼関係を作ってきていないのよ。市民サイドも権力サイドも、どっちも。だから、単純に政権が変わればいいって話ではなくて、たぶん構造があかんのよね、今のこの国の民主主義の在り方は。もうズバリ失敗しとるな、と思う。だから、コロナ対応を評価した政府のランキングとか、いろんなランキングが低いわけやん。こんなに低いわけないやんって、俺は思ってるの。日本には賢い人もいっぱいいるわけやし。だけど、そういう人たちが発言力を持てていない気がする。だから失敗してるんやろなって。一回ドーンと〝ご破算で願いましては~〟っていうのが、俺は必要なんじゃないのかなと思うのよ」

1回リセットするというか、地の底まで落ちるというか……。

「いずれにしても、俺はもうこの国はだいぶヤバいなと思ってる。お金の使い方を見ても、どうよ?って思うやん。福島第一原発の収束にも、まだまだお金はかかるわけやんか。それで今回のコロナも大打撃なわけやろ。それを全部、将来の大人たちに丸投げしてるやん。で、借金から何から全部、未来の人たち、要は子どもたちに任せようとしてる。それで納得すると思うのかな? ネイティブ・アメリカンに、7代先の子孫が足元からオマエを見ているっていう思想があるけど、その視点ってすごい大事やなと思うの。今の日本人全員に伝えていかなあかんよね」

 

2020.8.20「明日の日本を考えるLIVE FOR NIPPON Vol.111」LOFT9 Shibuya

孤独と愛の両立が大事やと思ってる

課題はたくさんありますよね。

「前回よりも激しいロックダウンは、これから世界中に来ると思うんよ。だから、たとえ今より少しコロナが収まったとしても、リモートワーク中心にしていけばいいのよ。音楽も、リモート中心でいいのよ。その上で、ライブハウスが潰れないようなシステムを構築すればいいだけであって。もっとディープにコミュニケーションができるようなシステムが絶対できるし。より激しいロックダウンが来ても耐えうる社会構築を今のうちにしておかないと、長い冬が来るよ」

それでも耐えうる社会が、どんな社会なのかを考えていかないといけないですよね。

「実際もうSFみたいな状況なわけやん。向き合って会話ができない、食事ができない。で、これから家族であっても一緒に食事することができない、みたいなもっときつい状況が来る可能性があるわけやん。そうすると、孤独を感じる場面が今以上に増えるってことだよね。その時に、家族や恋人に対する愛を、どうやって伝えるかって話やんか。伝えなあかんのよ、メールでも手紙でも何でも。愛を伝えないと、ウイルスに分断されてまうんよ。だから、もっと愛を能動的に伝えるべきだと思う。

そういう意味でも、新しいテクノロジーでいろいろできることがあると思う。愛を伝えたい人に、接触なしに愛を伝えることができるってわけやろ。逆に、憎しみを伝えることもできるけどな。憎しみを流通させて、分断から争いになって、憎悪の嵐、そして殺し合いになっていくのは最悪のシナリオやから」

そうですよね。コロナ禍では、SNSでの誹謗中傷の問題もありました。

「たぶん、孤独をちゃんと咀嚼しないといけないのよ。孤独を咀嚼しきれない人が、ストレスを溜めて、ネガティブな言葉を誰かに投げつけてしまうわけやんか。それで誹謗中傷とか、憎しみっていう表現をしてしまうんだと思うのよね。でも、愛っていうのは、恋愛も含め、こういう時にすごい効果を発揮するものなんですよ。孤独に対して、愛はものすごい有効なお薬ですよ」

でも、愛をちゃんと表現するのって難しいですよね。日本人は苦手なイメージがありますし。

「言わない人が多いからね。だから、ギスギスすんのよ。たぶん世界中、そんな大得意ではないのよ。でも、伝えられる人はずっと伝えてきてたわけやん。ダライ・ラマも、ローマ法王も、出てくるのは愛のワードなんよね。それに、ものすごい救われるわけやん」

ミュージシャンって愛の伝道師みたいな存在ですしね。

「だから、〝愛を伝えることはかっこいいことなのだ〟〝かっこいい生き方なのだ〟っていうのを、賢くてかっこいい人たちが胸を張って発言すべきじゃないのかなって思うよね。俺は孤独と愛の両立が一番大事やと思ってる。で、そこに対して、ブレないビジョンを持っていれば、何も恐れることはないって思うな」

 

佐藤タイジ / 「もう一度世界を変えるのさ」[311 未来へのつどい Peace On Earth]2019.3.11 @日比谷公園

 

佐藤タイジ

1967年、徳島県出身。86年にシアターブルックを結成。95年にメジャーデビュー。現在、シアターブルックのほか、ソロ、ユニット等で活動する。

http://www.taijinho.com/
http://www.theatrebrook.com/
https://twitter.com/_theatrebrook_
https://www.instagram.com/taiji_sato_project


インタビュー : ジョー横溝
2020年6月27日東京にて