2020.6.17 無観客ライブ『We Still In The LAB』 Photo by Satoshi Hata
ポストコロナは、どんな社会を想像していますか? そして、どんな新しい発信の仕方を考えていますか?
「劇的に変わるとは思わないですね。そもそも劇的に変わることなんてないし、少しだけ変わることの繰り返しでしかないと思うから。だから、無理に新しいことをする必要はないし。ただ、〝なあなあ〟をひとつやめるだけで可能性はすごく広がると思います」
どういうことですか?
「例えば、自宅でライブ配信をやる時、この状況だし、たとえ映像や音質が悪くても、そこそこの情熱でやっても、みんなわざわざケチをつけないと思うんですよ。だけど、ちゃんとした機材を使えば、家でもクオリティは上げられます。それをやろうと思うとお金も負担も余計にかかるけど、見た人が得る感情もその分広がるし、やった側も達成感がある。そうやってなあなあにしないことで、少しだけですが、絶対にクオリティが上がる。それって生活そのものも同じですよね」
確かに。
「それは音楽にまつわるビジネス、すべてに言える気がする。アーティストの周りって、いろんなビジネスがなあなあで動いちゃってると思うんです。名指しでいうとアレだけど、日本のメジャーレーベルが抱える問題って、多くはそこだと思う。〝えっ、これって20年前と何も変わってなくないですか?〟ってことが本当に多い。劇的に変えるのは本当に難しいけど、問題意識を持ってひとつひとつやっていけば、少しずつ変わっていく。システムが変わればクリエイションが変わって、クリエイションが変わったらファンの意識が変わって、ファンの意識が変わったら、ひょっとしたら世の中が1ミリくらいは動くかもしれない。だから発信者である0から1を作る人間は、なあなあでやらないとか、問題意識を持つとか、そういうことを絶対に大事にするべきだと思っています」
コロナ禍で忘れてはいけないと思った瞬間を挙げるとすると?
「BLM問題を6月8日に自分のインスタやブログにポストした瞬間。ポストする前、これを書くと黄色人種が首を突っ込んでいる感じになってしまうよなとか、それ以前に言及するのかしないのかも考えたし、すごく悩みました。この問題を言及や主張〝するやつ〟〝しないやつ〟みたいな区分けになるのも嫌だったし、そのこと自体が分断、差別と同時に同調圧力にもなったから。検察庁法案もそうですよね。SNSは実世界じゃないにもかかわらず、実世界と同等かそれ以上の同調圧力が生まれている感じもしたから、安易にそれに加担したくない気持ちもあったし。でも、BLM問題に対しては、当事者ではないけど部外者ではないなという感覚を持ったんですよ。自分が今いる東京においては、僕は非常にマジョリティだけど、職業でいえば相当マイノリティだし。人って、見方ひとつでマジョリティにもマイノリティにもなり得るから」
状況や環境で入れ替わりますよね。
「マジョリティの人は、マイノリティである人間がいること自体を何かしら実感しないと、簡単に無意識のいじめみたいなことは起こってしまう。だからこそ、すべての問題において、当事者ではないけれど、部外者ではないなという感覚を持つべきだって実感があった。だから、もう一回フラットになった感じかな。社会的に良さそうなことだったら全部に首を突っ込むのが正義とも思わないし、逆に社会的に良さそうなことをしない人を悪とも思わないし。同時に、社会的に悪いとされることをした人が必ずしも悪だとも俺は思わないし。
あと、その瞬間その瞬間で人の言っていることなんて、微妙に変わったりしていいと思うんです。その瞬間その瞬間、その人の立ち位置って違うから。誰もが知っている人として発言することもあれば、誰も知らないマイノリティの存在として発言することもあるし。自分のなかに発信をやめる必要がないなという感覚がありました」
部外者、当事者のことでいうと、音楽やアートは部外者性みたいなものをひっぺがしてくれるものだと僕は思うんです。
「全員を当事者にしてくれますよね。映画なんて、最たるものだし。恋愛映画にしろ、宇宙戦争にしろ、まったく当事者じゃないですから(笑)。だけど、観ている側を部外者から関係者に引き上げますよね」
そして、音楽もアートも、当事者性プラス普遍性を持っていると思う。
「もちろん普遍性はあるけど、時代性はありますよね。今でもジョン・レノンの歌は聞かれているけど、今、『Imagine』と同じような歌詞を書いた人がいたら、さして話題にもならないかもしれないし。ケンドリック・ラマーが顕著だけど、社会的な歌がより激化していったところもあるし、求められている気もするから」
そういう意味では、音楽表現者としては面白い時代に突入しつつあるとも言える?
「面白くない時代なんてないんですよ。その瞬間に、何かしらの不満を感じている人が〝こんな時代なんて〟って言ってるだけで、きっとすべての時代が面白い要素に溢れていて、問題も溢れている。そのどこに目を向けるかってことだけど、1カ所にしちゃいけないような気がする。楽観的に面白い時代だなと思うのもつまらないし、悲観的に問題点ばかりを見つめるだけっていうのも人生として嫌じゃないですか。でも、全部に目を向けるには時間が足りない。そのバランスをピックしつつ、自分はすべてのものに関して目を通せていないという自覚を持つことが、これから先の時代では特に大切な気がしますね」
2020.7.19 配信LIVE 「SKY-HI Round A Ground 2020 -RESTART-」 Photo by Satoshi Hata
2005年、AAAのメンバーとしてデビュー。同時期から「SKY-HI」として都内クラブ等で活動をスタートし、2012年に自身主宰のコラボレーション楽曲制作企画「FLOATIN’LAB」をリリース。KREVA等、多数アーティストの楽曲への客演や各地でのライブも経て、同年の『WOOFIN’ AWARD 2012』のベストオブラッパー部門を受賞。2013年にメジャーデビューを果たす。
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インタビュー : ジョー横溝
2020年6月30日 オンラインにて