「足りないのは政治の決断だけ」小川淳也

エネルギー問題の専門家である飯田さんは震災後の11年をどんなふうに感じていますか?

飯田「まず大きく地球規模で見ると、この10年は世界では凄(すさ)まじい変化が起きている一方、日本が停滞もしくはマイナススパイラルに陥っているので、その落差が大きくなってきています。福島原発事故の時は〝あのカオスの中で大変だよね〟と世界の人は見ていた。〝あの先進国の日本が事故を起こすんだから〟ということでドイツとかは脱原発を決めた。ところが10年経ち、一昨年から新型コロナウイルス感染症が流行し始めて、日本のダメな所があらわになった。例えば 〝PCR検査をしたら医療崩壊を起こす〟という議論が巻き起こったのは日本だけです」

そうですね。

飯田「コロナという世界が同時に受けている〝共通一次試験〟において、徹底的に対応できる国がある一方、日本は非科学的・非論理的なやり方で行政と政治が機能不全に陥りました。それは福島原発事故の対応や汚染水の処理に関しても言えることで、政府の劣化がひどいです。一例ですが、去年の自民党総裁選の時に〝脱原発〟を持論とする河野太郎さんが出馬して、彼を当選させるとやばいということで電事連(電気事業連合会)や安倍(晋三)さんの秘書の今井(尚哉)さんや経済産業省が岸田(文雄)さんの応援に入って、〝使用済み核燃料を直接処理すると10万年かかるが、再処理すると処理期間は300年になる〟と主張しました。これは岸田さんの公約本にも書かれていますが、真っ赤なウソです。なのに、こんな明らかなデタラメが経済産業省のホームページにも堂々と載っている。〝ここまで落ちてしまったか〟と。日本が世界から取り残されつつある今、その落差をどう埋めるのかがすごく大事だと思います」

いとう「以前、デジタルによく通底している作家がびっくりしたと言ってましたよ。各国が新型コロナに関していろんな対策を練っている場面で、それぞれが使っているソフトがモニターを通して見える。当然あらゆるソフトを横断するようなものを使って全員がクラスターを分析するためにどんどんデータを入力している。でも日本の画面を映すと、エクセルだったと……」

一同「笑」

いとう「その作家曰(いわ)く〝もうこんなもんでやってる国はどこにもないですよ、おしまいです〟と。下手したら日本はFAXだからね」

ですね(苦笑)。震災後、さすがに日本も原発を卒業すると思っていたのですが、最新の第6次エネルギー基本計画をみると、第4次エネルギーと比べて2030年のエネルギーミックス目標において再生可能エネルギーは着実に伸びてはいますが、原発も20%ぐらいを占めていくような目標を政府が掲げています。そもそもなぜ原発はなくならずまた増えようとしていくのでしょうか? ※図1

※図1 第4次エネルギー基本計画・第6次エネルギー基本計画における2030年のエネルギーミックス目標の比較(作成:君ニ問フ編集部/出典:経産省)尚、2018年に公表された「第5次エネルギー基本計画」ではエネルギーミックス目標の見直しはなし。

飯田「原発が増えることはおそらくないと思いますが、この数字は役人が鉛筆をなめて作ったものなんです。どういうことかというと、まず2014年発表の第4次エネルギー基本計画の時は事故から間もないタイミングで〝原発〟とは言いにくいので〝重要なベースロード電源〟という言葉の中に大きく括(くく)って原発の維持を潜ませた。そして2015年、パリ協定で発表するために、再エネの22~24%という数字を先に作って、〝再エネより少なければ、原発の存在感が隠れるだろう〟という意図でこの20~22%という数字をでっち上げた。2018年の計画の際は、もうパンドラの箱を開けられないということで、再エネと原子力はその数字のまま維持されました。そして今回は、再エネはさすがに増やさないわけにはいかないので増やしたけど、原発の数字は動かせなかった」

なるほど。

飯田「放っておくとこの再エネの数字も達成できないのが今の日本の厳しい状況です。この10年間で太陽光発電のコストは10分の1になりました。風力は10分の3。蓄電池も10分の1になりました。太陽光と風力は10年前には世界の電力の1%に過ぎなかったのが今や10%。これからの10年で数十%に増やそうと、ドイツもアメリカや中国も3倍速という脱炭素高速化計画を立ててすごい勢いになっています。しかし、日本は市場がどんどん縮小しています」

どうして日本は逆行しているんですか?

飯田「原子力がないと電気が足りないという思い込みがあり、この10年間ずっとそう言われています。ドグマや神話のように、事実や経済性を見ないで原発が必要だと叫んでいます。原発をゼロにすることは容易にできるし、次なる事故を起こしてしまうことが一番怖いことなので、新設や拡大はほとんど不可能なはずです。ただ、泥沼的に目先のことをやろうとして、大局的な変化についていけてないという点がやはり最大の問題だと思います」

小川「私は現実的に原発を卒業していくべきという立場ですが、原発の再稼働もどこかでやむを得ないと思っています。ただ、それより問題なのは確実に再エネにシフトするという絵を誰も描いていないことだと思います。太陽光や風力のコストはこれからも下がるでしょう。日本はヨーロッパと比べると平地が少なく、また、遠浅の多いヨーロッパの海に比べて日本の海岸は遠浅が少ないんです。こうした地理条件の中で、具体的に何ワットの発電機を何機ぐらい設置すれば全エネルギーを賄えるのか、何年かければそこに辿り着けるのか、という絵を誰も描いていないように思います」

飯田「その点に関しては環境省が緻密な情報をGIS(地理情報システム)を使って出しています。その結果、太陽光と風力どちらも日本の現在の電力供給量の3倍はあるという結果が出ています。太陽光に関して一番ポテンシャルが高いのは農地で、風力は実際に調査をすると陸上だけで日本の総電力がカバーできます。ですので、ポテンシャルは全く問題ありません」

小川「そうすると、足りないのは政治の決断だけですね」

飯田「政治の決断に加え、実行体制をしっかり作ることです」

 

小川淳也 photo by 俵和彦

「ウクライナ侵攻でいろんな連立方程式が相当複雑になってしまった」津田大介

ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー問題への影響について話していこうと思います。ロシア軍がウクライナの原発を攻撃したことについてどう感じていらっしゃいますか?

津田「大変なことですよね。先に制圧されたチェルノブイリ原発は発電こそしていませんが、ウクライナ北部に電気を送る送電網のハブ的な施設です。ここが機能しなくなるだけでウクライナ北部の電気事情が本当に厳しくなる。次にザポリージャ原発を制圧した。原発は軍からの攻撃は当然想定していないわけですが、原子炉は職員を全部退避させるだけですぐに暴走してしまう状況になるので、ミサイルや重火器で建屋を攻撃する必要すらない。福島第1原発の事故の時には〝原発はもう無理だよね。そもそも人災だったよね〟という話があったけど、そこから11年経ってそのことを再び我々に問いかけているように思います。さらに言えば、日本は地震大国で北朝鮮も近くにある状況なので、原発事故の後、安全対策はある程度強化されてきた一方、専門家でさえ〝軍事的な攻撃なんかしない〟と言ってきました。しかし、今起きていることはリアルに核施設が軍事的に狙われていることなので、やはり原発はリスクになるということが顕在化したし、これは再稼働の議論だけじゃなく新設やリプレイスの議論にも当然影響すると思います」

ええ。

津田「脱炭素という目標が世界的に喫緊(きっきん)の課題になり、それに向けて、原発再稼働で対応しようというのは、単純な理論で説得力があるように聞こえますが、そこで原発を選べばテロ対策のために信じられないくらいコストがはね上がるし、そのコストは電気代にも跳ね返ってきます。だからロシア軍の原発攻撃でいろんな連立方程式が相当複雑になってしまった」

いとう「原発への攻撃が明らかになった時点で世界の戦争の概念は変わったと思います。だって過激派テロ組織や独裁国家がこれをやってもおかしくないわけでしょ。これが認められると、今までの戦争で決めていた約束事が全部なくなる。要するにエネルギー施設を押さえることで敵国民を餓死させたり、凍死させたりすることができるんだから、核を使う必要が全くなくなる。僕がこの攻撃を知った時に本当にゾッとしたのは、原発をもし攻撃したら爆撃した本人たちも含めてものすごい放射線を浴びることになるのだけど、実行部隊がその危険性を知らされていないことです。そういうことを知らない若い子だけを使って突進させているのは明らかで。そうでもなければ、あんなに煙が出ていたら〝自分はもう死ぬんだ〟と慌てますよね。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を見ている感じがしたよね」

確かに。

いとう「覚醒剤で正常な感覚を麻痺させているくらいのことをやっている。今回明らかになったこの問題をどうにか解決しないと、地球・世界が滅びる、そのぐらいの瀬戸際に我々は立たされていると感じています」

そもそも人類が核物質の利用法を世の中に生み出した瞬間にパンドラの箱を開けたわけですよね。

いとう「オウムが地下鉄サリン事件を起こした時に当時の妻が〝テロリストも大義がなくなったなあ……〟ってポツンと言いましたけど、〝これをやったらおしまいだよね〟ということをやってしまった。今回の原発への攻撃も超大国による無差別テロになる可能性があると思います。このことを誰がどう舵取りして収めていくのかということを思うと、絶望的に感じています」

 

津田大介 photo by 俵和彦

「どうしていくべきかは、はっきりしている」 飯田哲也

飯田さん、ウクライナ侵攻は今後エネルギー供給などにどのような影響を及ぼすのか教えてください。

飯田「はっきり言えるのは、この危機以前からの天然ガスや石油の値上がりが、一段と加速するということです。まずロシアの輸出の半分が天然ガスと原油なので、それらを停止したらロシアは完全に息の根が止まります。そして、逆にヨーロッパはこれで再エネ、特に太陽光と風力へのエネルギーシフトが加速します。ドイツの財務大臣が〝再生可能エネルギー・自然エネルギーは自由のためのエネルギー(energy for freedom)だ〟という名言を今回残しましたが、どんどん再エネにシフトしていく方向に進むでしょう」

日本はどうなのでしょうか?

飯田「今回の原発への爆撃は今後非常に有力な議論になってくると思います。それと、再稼働も重要な論点ではあるけど、新設はもう完全に絵に描いた餅になると思います。だからそういう意味ではもう再エネにシフトするしかなくなります。小川さんが先ほど〝何年かければそこに辿り着けるのか?〟と話されていましたが、これはちゃんと政策を作ればオーバーシュートするので当面は暫定の計画でいいんです。例えば、ドイツは2000年に再エネ5%だった時期に、2020年に20%という目標を掲げていましたが、2020年に蓋を開けたら倍の40%になった。で、当時50年までに80%という目標を掲げていたのを、今回の戦争で2035年までに100%と大幅に上方修正しています。だからうなりを上げてコストが下がり、性能が上がる。加えて自然変動型の風力と太陽光に関するテクノロジーもどんどん進んできて、更に蓄電池の技術が加わってきています。今、まさにテクノロジーの力で未来が作られようとしています」

津田「これに関して、ウクライナ侵攻の前までは大きな世界的コミットとして〝脱炭素〟があり、そのために再エネを増やして石炭や石油を減らす話がありましたが、今は2つの議論があるということですよね。一つが原発は〝クリーンエネルギー〟でCO2を出さないから脱炭素のために原発を再稼働させて原発へシフトしようという議論。そして、もう一つは再エネへの加速が進んでいくという議論。ただ日本の場合はそれとは別に、原発再稼働の議論があって、欧米とも違った状況だと思うんですが、これはどうなっていくと予想されていますか?」

飯田「一番ありそうなのはますます混沌とするということですが、どうしていくべきかは、はっきりしています。津田さんが最初におっしゃった〝ウクライナ侵攻の前は脱炭素が名目だった〟という話をもう少し丁寧に見ると、脱炭素の前に再エネの爆発的な普及があったということです。もともと2010年頃まで太陽光は世界の電力のわずか0.1%、風力は1%程と微々たるもので、気候変動の世界にとって再エネは眼中になかったわけです」

津田「なんら貢献しえなかったわけですね」

飯田「そうです。もちろん役に立つけれども高いし大して期待もできないと皆が思っていた。ところがそこから倍々ゲームで増えてきてどんどん安くなり、ちょうど2015年のパリ協定※1の前年2014年にAppleやGoogleなど世界の大企業が自らの事業を全て再エネでやる『RE100』という運動を立ち上げました」

津田「そうすると投資マネーもそこに入ってくるようになって、欧米もグリーン・ニューディール※2について言及しだしたということですよね」

飯田「そうです。2015年のパリ協定に合意できたのは、それまでは炭素を減らそうと思ったらギャップ&トレードや炭素税で減らすしかないという思い込みがあって〝炭素を減らす〟のはつまり〝成長をやめる〟ということかと直情的な反応で反対していたのが、その頃には〝あ、再エネに変えたらいいんだ〟ということに合意できるようになっていたからです。しかもその後、太陽光、風力そして蓄電池が伸びて、電気自動車(EV)も伸びてきたので〝脱炭素で気温上昇を1.5℃に抑える目標も達成できるかもしれない〟という技術的な裏付けもできてきています。だからあとはそれを加速するだけです」

いとう「太陽光パネルのゴミの問題も僕が現場を見る限り、廃棄物の量はどんどん少なくなっていると理解していますが、そこは今後どうなりますか?」

飯田「個別の各論で言うと、日本では多分80万~100万トンくらいが30年後ぐらいに廃棄物として出ると思います。ただ、太陽光パネルは95~98%リサイクルできるので量的にはほとんど無視できます」

もはや再エネに進むのは自明であるとはいえ、喫緊の電力ひっ迫に際して「原発再稼働が必要だ!」というロジックにはどう対抗すればいいのでしょうか?

飯田「電力ひっ迫については※図2のとおりで、電力不足が起きるのは1年のうち30〜40時間、0.4%ですので、それを少しずらすだけで回避できますし、ピークを1割500万kW下げることができます。そのためには、デマンドレスポンスや、急激にコストの落ちている蓄電池がもっとも有効です。1年中、ずっと動いている小回りの効かない原発は無意味なんです」

 

※図2 飯田哲也氏提供「東京電力管内の電力需要(2021) ※最⼤需要順に1時間ごとに1年間の電⼒ 需要を並べたもの」

パリ協定※1……2015年12月にフランス・パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、世界約200か国が合意して成立。1997年に定まった「京都議定書」の後を継ぎ、国際社会全体で温暖化対策を進めていくための礎となる条約で、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑える。加えて平均気温上昇「1.5度未満」を目指すことを目的としている。

グリーン・ニューディール※2……自然エネルギーや地球温暖化対策に公共投資することで、新たな雇用や経済成長を生み出そうとする政策。第44代アメリカ大統領、バラク・オバマが打ち出した。環境と経済の問題を同時に解決する手法として注目を浴びており、アメリカを皮切りに、日本や国際社会でもこの政策の検討・整備を始めている。

 

飯田哲也 photo by 俵和彦

「情報を正しく常に新しくしていくことが我々の抵抗の仕方になる」 いとうせいこう

僕は自宅で再生可能エネルギーの電力を利用していますが、液化天然ガス(LNG)や石油の価格が上がると関係のない再生可能エネルギーの料金も上がるんです。このシステムだと再生可能エネルギーの構成比率が跳ね上がる力が失われてしまうと思うんですが……。

飯田「そうですね、価格は間違いなく上がります。現状、電力卸取引所で電気の価格が決められていて、既存の電力会社が価格支配力を握っているからです。本当はもっと透明性がある合理的な仕組みにしないといけない。更にもっと長期的に考えると再エネにシフトするほど電気料金はネットワーク維持のコスト以外はどんどんなくなるはずなので、そこまで見据えて皆さんが電力会社を選べたらいいと思います」

再エネへのシフトを進めるには、どこを変えたら良いのでしょうか?

飯田「大きく言えば政治ですが、皆さんが電力会社を変えることや、戸建て住宅を持っておられる方は太陽光と電気自動車で蓄電池を導入して電力を売買するというのもあります。あと、オーストラリアでは、コミュニティ単位で太陽光と蓄電池を取り入れてそこで電気をシェアするという取り組みも始まっています。このように電気をみんなで共有する仕組みを個人からコミュニティ単位で作ってどんどん風穴を開けていきながら、政治家とも繋がって法律の改正も含めてボトムアップとトップダウンを組み合わせていく。それによって自由で自立したエネルギー社会を作っていくのがいいと思います」

いとう「ボトムアップとトップダウンを組み合わせてというところについて、僕はパートナーシップ制度をよく例に上げて話すのですが、渋谷や世田谷で始まって今ではいろんな自治体がこの制度を採用しています。そういうふうに小さな単位、ボトム(下)から変えていく動きが過半数を超えてしまえば、上も大きな法律で認めるしかなくなる。僕らはまず大きな法律を変えてどうにかしようと考えるけど、それ以上に〝僕らがシェアする方が面白いじゃないか〟あるいは〝電力会社を変えていこうか〟と行動する人が少しずつ増えていって50%を超えた時に〝我々が実はマイノリティじゃなかった〟ということになる。僕はそこにしか可能性はないと思ってますし、そういった共同体同士がネットワークを組んでいくことで自分たちの世界観を享受することはあり得ると思います」

確かに。

いとう「でも飯田さんの話を聞いているとそんなに小さな単位でなくてもいいと思ったのと、技術はすごく進化しているのに、我々がそれを見たり聞いたりしないようにさせられているだけで、通路ができれば一気に変わるのではないかという気がしました」

最後に登壇者の方から一言いただいてイベントをクローズしたいと思います。

津田「今、本当に考えないといけないことが増えています。10年前は悲惨な原発事故があって、人類が原発を使い続けること自体が困難なんじゃないかと、ある程度一つになれたけれど、その空気が3年も経つと消えていきました。そして、この10年で再生エネルギーが産業として本当に大きく変わり、世界的にもいよいよ脱炭素をやらなければいけなくなった。日本の報道だけを見ているとなかなかわからないけれど、世界では大きなパラダイムシフトが起きています。そして更にエネルギー環境がウクライナ侵攻によってより我々の生活と直結する厳しい問題になってきている中で、原発を生き延びさせたい政治家はウクライナ侵攻をショック・ドクトリンとしていいように利用します。おいしい情報だけつまみ食いして話す〝チェリーピッキング〟に気をつけないといけません。今、ウクライナとロシアの間でプロパガンダ合戦、情報戦が話題になっていますが、それは別にその2国に限らず日本を含めあらゆるところで行われているんですよね。原発なんてまさにプロパガンダ合戦ですから。このことに留意しつつ、対抗するためには我々がこの問題を直視し、知っていって声を上げていくことだと思います」

小川「今直面している問題は最終的にすべて政治に行き着きます。我々政治家が頑張るのは当然ですが、結局どういう政治を作っていくかは有権者に最終の権限があります。1人には1人分の権限しかないので、かすか過ぎて実感することは難しいけれど、そのたった1人分の権限を想像できるかどうかがこの先の問題をうまく乗り越えて行けるかどうかの分岐点だと思います。そこも含めて、なんとか格闘して諦めないということだけは決めて、やれるところまでやっていきたいと思います」

飯田「私が関心を寄せているテクノロジーの分野は世界的な視点で見ると、良い方向に変化が加速しています。そうすると、日本はただ止まっているだけで相対性理論で言えば後退です。私個人のささやかな活動を通してできるだけその変化にリアリティを持たせていきたいです」

いとう「ベトナム戦争の事を考えると、アメリカが陥落できない状態が何年も続き、その間アメリカでは文化も音楽も芝居も映画、ファッションも含めて考え方がどんどん変わっていきました。そして最終的には世界を変えていくことになったわけです。今ロシアとウクライナで起こっていることはそれの1週間版みたいなことで、ベトナム戦争の時に数年かかって起きたことがこの数週間で起きています。つまり今どれだけ情報の戦いが繰り広げられているかということだと思います。しかし、この戦いを力のぶつかり合いとしか捉えられない人たちが〝どういうふうに核を持とうか〟などと言っています。そんなの核を持った途端にハッキングされるに決まっているわけで、日本がどれだけハッキングされているのか彼らは知らないわけです。私たちが情報を正しく常に新しくしていくことは非常に大事で、それが我々の抵抗の仕方になると思います」

 

いとうせいこう photo by 俵和彦

 

いとうせいこう

1961年生まれ、東京都出身。1988年に小説『ノーライフキング』でデビュー。1999年、『ボタニカル・ライフ―植物生活』で第15回講談社エッセイ賞受賞、『想像ラジオ』で第35回野間文芸新人賞受賞。現在『河北新報』、『文藝』にて『東北モノローグ』を連載中。
みうらじゅんとの共作『見仏記』で新たな仏像の鑑賞を発信し、武道館を超満員にするほどの大人気イベント『ザ・スライドショー』をプロデュースする。現在はnoteで『ラジオご歓談!』を配信中。
音楽活動においては日本にヒップホップカルチャーを広く知らしめ、日本語ラップの先駆者の一人である。
https://www.cubeinc.co.jp/archives/artist/itoseiko

飯田哲也

エネルギー学者。環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長。1959年、山口県出身。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
原子力産業や原子力安全規制などに従事後、「原子力ムラ」を脱出して北欧での研究活動や非営利活動を経てISEPを設立し現職。自然エネルギー政策では国内外で第一人者として知られ、先進的かつ現実的な政策提言と積極的な活動や発言により、日本政府や東京都など地方自治体のエネルギー政策に大きな影響力を与えている。
https://www.isep.or.jp/

小川淳也

政治家。1971年、香川県出身。元自治・総務官僚。立憲民主党所属の衆議院議員(6期)。総務大臣政務官(鳩山由紀夫内閣・菅直人内閣)、立憲民主党代表特別補佐、立憲民主党政務調査会長などを歴任。2020年、2021年には小川氏を題材にした映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』(監督:大島新)が上映された。
http://www.junbo.org/

津田大介

ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長/ポリタスTVキャスター。大阪経済大学情報社会学部客員教授。1973年、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。メディアとジャーナリズム、テクノロジーと社会、表現の自由とネット上の人権侵害、地域課題解決と行政の文化事業、著作権とコンテンツビジネスなどを専門分野として執筆・取材活動を行う。
http://tsuda.ru/